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松下幸之助も夢見た衣類折りたたみロボット 「ランドロイド」誕生秘話

阪根信一(セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ社長)

2018年10月18日 公開 2022年08月18日 更新

まだ世にない豊かさを求め、0から1を生み出す


 

阪根信一 さかね・しんいち
セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社代表取締役社長、理学博士

1971年兵庫県生まれ。日本の大学を経て、1999年米国デラウエア大学化学・生物化学科博士課程修了(Ph.D.)。卒業後、父の経営する株式会社I.S.Tに入社し、取締役等を経て2008年~2010年代表取締役社長を務める。2011年、Seven Dreamers Laboratories, Inc.を米国で創業、President & CEOに就任。2014年に日本法人を設立し、現職。2016年パナソニック、大和ハウス工業から出資を受け、セブン・ドリーマーズ・ランドロイド株式会社を設立、代表取締役社長に就任。2017年エンデバー・アントレプレナー選出。

衣類を自動で仕分けて、折りたたんでくれる――そんな夢のような機械がある。全自動衣類折りたたみロボット「ランドロイド」だ。開発したセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズの阪根信一社長は、これまで世の中になかったものを追求し、“0”から“1”を生み出すものづくりに挑んできた。開発メンバーでさえ不可能と考え、困難が連続する中、阪根氏の挑戦を支えたのは、松下幸之助の教えだったという。はたして、ものづくりベンチャーの旗手が目指す真のイノベーションとは。

取材・構成:平林謙治
写真撮影:山口結子
 

本当のイノベーションを起こす3つの条件

事業家であれば誰もが、新しいイノベーションの創出を夢見るものでしょう。とりわけ「ものづくり」の分野では、その夢をいち早くカタチにするために、世界中のプレーヤーが日々しのぎを削っています。しかし、残念ながら、実際に本当のイノベーションを起こすことができる企業はごくまれといわざるをえません。

私がものづくりベンチャー「セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ」を立ち上げた、唯一にして最大の理由は、みずからの手で本当のイノベーションを起こして、日本発の技術が世界に通用することを証明したいと願ったからです。

そもそも「本当のイノベーション」とは何か。どういうモノをつくれば、「本当のイノベーション」といえるのか。

それは、“0”から“1”を生み出すことにほかなりません。既存技術の改良品や廉価版の開発に甘んじるのではなく、まだ世界のどこにもないモノをつくり出してこそ、本当のイノベーションに値すると、私たちは確信しています。

そこで成否のカギとなるのが、具体的な開発テーマの選択です。テーマをちゃんと選べなければ、真のイノベーションにはいたりませんからね。

当社ではテーマを探す時、分野などにはこだわりません。譲れないのは、「世の中にないもの」「人々の生活を豊かにするもの」「技術的なハードルが高いもの」という3つの条件。これに適うテーマだけを選び、果敢に挑戦することが、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズの使命なのです。

とはいえ、開発テーマはそう簡単に見つかりません。起業前、まだ父の会社に在籍していた頃から先の3条件を掲げ、スタッフとともに探し続けてきましたが、アイデアはポンポン出てくるものの、却下、却下の連続でした。特許論文などにあたると、私たちが思いつくようなテーマはほとんど誰かに先を越されていたからです。

なぜ他の人とアイデアがかぶるのか。考えてみれば、日本のものづくり業界はまだまだ男性社会じゃないですか。人材の多様化は、欧米ほど進んでいません。画一的な環境下で、誰もがイノベーションを追い求めているわけですから、視点が偏り、発想が重なるのは必然でしょう。

これからの時代は、女性や子供、高齢者のニーズも大切にしないと――そう考えた私は、妻にも一度聞いてみようと思い立ち、「家の中に『こういうものがあればいいな』と思うもので、まだ世の中になく、技術的にも開発がすごく難しそうなものはないかな?」と、例の3条件をぶつけてみました。すると、即答でこう返ってきたのです。

「それはもう、洗濯物を自動でたたんでくれるロボットでしょう」

ハッとしましたね。確かに洗濯物の折りたたみは、家族が多いほど時間も手間もかかります。一生涯で考えれば、膨大な時間と労力をその家事労働に費やしていることになります。なるほど、そういうテーマがあったかと気づかされました。

この妻のひと言が、現在注目を集めている全自動衣類折りたたみロボット「ランドロイド」開発の出発点です。2005年のことでした。

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