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松下幸之助も夢見た衣類折りたたみロボット 「ランドロイド」誕生秘話

阪根信一(セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ社長)

2018年10月18日 公開 2022年08月18日 更新

ランドロイドは何がすごいのか

翌日から早速、特許関係などの確認に入りましたが、どんなに詳しく調べても先例は見つかりません。どうやらまだ誰も手をつけていないテーマらしく、「これは来たな」と意を強くして開発に踏み切りました。

洗濯・乾燥した衣類を仕分けして折りたたむという作業自体は、手間こそかかるものの、難易度はさほど高くありません。私にもできる家事ですし、機械に代替させることは十分可能と判断して始めたのですが、とんでもない。製品化には想像以上の困難が伴い、2018年度中の出荷開始にこぎつけるまで、実に10年以上の歳月を要しました。

「ランドロイド」の使い方は、乾いた衣類を下部のインサートボックスにランダムに放り込み、スタート操作をするだけ。あとは機械が全自動でたたみ、家族別やアイテム別に仕分け・収納までしてくれます。

洗濯物の山からロボットアームで衣類を一つひとつつまみ上げて、広げ、画像解析と人工知能(AI)でどんな衣類か認識してからたたんでいく――というのが基本のメカニズムですが、技術的には衣類をきれいに折りたたむ工程よりも、最初にそれが何かを見分ける工程のほうがはるかに難しい。衣類のように柔軟で、形状が変わりやすいものの識別は、AIの最も苦手とするところですからね。

実際、折りたたみの技術だけなら2、3年目には開発できていたので、ひとまずそれを商品化しようかという話もありました。しかし、TシャツはTシャツ、ズボンはズボンといちいち人が分けてセッティングしなければならないのでは、意味がありません。到底、本当のイノベーションとは呼べないでしょう。

ランダムな状態からTシャツをTシャツと認識し、完全に全自動で折りたためるところまで持っていきたい――それは世界中でまだ誰も越えていない壁ですが、私たちはAIと画像解析・ロボティクスを駆使して、なんとか突破することができました。「ランドロイド」が世界初の技術と称されるゆえんです。

もっとも、歴史が少し違ったら、このイノベーションを起こして世界初の栄誉に浴したのは、私たちではなかったかもしれません。というのも、かつてメキシコで暮らしていた私の叔父が1980年代前半に、現地を視察で訪れた日本人実業家から通訳を頼まれた際、「実は今、洗濯物折りたたみ機を開発しているんだよ」と聞いたらしいのです。

その実業家とは、数多くの優れた家電を世に広めて人々を家事労働から解放し、一代で世界的企業を築いた立志伝中の人物。そう、ほかでもありません。パナソニック創業者の松下幸之助さんです。

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズは一昨年パナソニックから出資を受けましたが、同社との事業提携が決まった後に叔父から初めてそのエピソードを聞き、私は何か運命のようなものを感じずにはいられませんでした。

※本稿は、マネジメント誌「衆知」2018年7・8月号、特集《新時代の『ものづくり』》より一部を抜粋編集したものです。

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