大天使ガブリエルがマリアへ妊娠を伝える。(フィリッポ・リッピ「マルテリー受胎告知」部分 1445年制作)
<<12月ともなれば、日本はクリスマスムード一色。その様子は海外のキリスト教圏から見れば不思議がられるが、このイエス・キリストの生誕を祝うクリスマスは日本人にとっても季節行事となっているのも事実。
キリスト教圏においてクリスマスとともに重要視されてきたのが、聖母マリアの“受胎告知”。聖母マリアが身籠ったことを知らされる一瞬の出来事を、近現代に至るまで1,500年以上ものあいだ、多くの画家たちが題材として描いてきた。
その受胎告知で重要な役割を果たしている大天使ガブリエル。その背中には翼があり、多くの人がイメージする天使の姿。だが、背に翼が生えているのは「大天使」のみで、他にも8つもの天使の階級があることをご存知だろうか?
美術史家の高階秀爾氏が上梓した『《受胎告知》 絵画でみるマリア信仰』において、天使の階級と役割について語っている。ここでは、その一節を紹介する。
※本稿は『《受胎告知》絵画でみるマリア信仰 』(PHP新書)より、一部抜粋・編集したものです。
大天使ガブリエルとマリアが描かれる「受胎告知」
どの時代の《受胎告知》も、大半は聖母マリアと大天使ガブリエルの二人だけが登場する。
マリアが身籠る前の逸話なので、イエスは描かれない(ただし、幼児のイエスを描いた例もあるにはある)。
イエスとマリアが揃って登場するのは、これもやはり数多く描かれた《聖母子像》である。なお、ガブリエルは従者や仲間の天使たちとともに描かれるケースも多く見られる。
たとえば、パリのルーヴル美術館に収蔵されているベルナルド・ダッデ
ィ(1280頃−1348年頃)やサン・ロレンツォ聖堂(イタリア・フィレンツェ)のフラ・フィリッポ・リッピ(1406−69年)、ピッティ美術館(同)のアンドレア・デル・サルト(1486−1530/31年)などは複数の天使を描いた。
その一方、マリアが仲間たちと描かれることはなく、わずかな例外があるのみである。
ここでは大天使ガブリエルについて少し触れたい。