都築明寿香・都築学園グループ副総長 日本の大学が国際社会で果たすべき役割とは
2018年12月23日 公開
紀伊國屋書店社長・高井昌史が、全国の有力学校法人トップと教育の未来を語る!
大学教育の現場でも盛んに国際化が叫ばれる昨今、日本経済大学をはじめとする都築学園グループでは、他に類を見ないグローバルな展開をしている。途上国での学校開設や、内戦で荒れた国の再興を支える民間人女性を留学生として受け入れる計画を進めるなど、興味深いチャレンジを続ける都築明寿香副総長にお話をうかがった。
取材・構成:江森 孝
写真撮影:長谷川博一
世界を意識した米留学中の体験
高井 都築先生は世界中を飛び回っていらっしゃって、先日も中米のエルサルバドルに行かれたそうですね。
都築 はい。今、JICA(国際協力機構)が、内戦で分断されたコミュニティを立て直そうとしています。その中心に、現地の主婦による生活改善プログラムの浸透と、かつて日本でも話題になった一村一品運動の推進があります。
当学園グループでも学生をボランティア派遣しているのですが、日本への人材受け入れの面でも支援しようと話をしています。学生に限らず、運動に携わる主婦など一般人にも日本に留学してもらい、国際貿易やマーケティングを学んでもらおうと計画中です。
高井 国費留学だと官僚など社会的地位の高い人たちの子女が多くなりがちですが、草の根であれば多様な人材を受け入れることができますね。
都築 ええ。私どもでは、ODAを充足するかたちで人材育成面の支援をしたいと思っています。日本の大学が新しい国づくりにひと役買うことも、グローバル化における日本の大学の役割と責任だと考えています。
高井 国づくりの基礎になるのは、やはり教育ですからね。先生はそれを先頭に立って進められていますが、その積極性と国際性の原点はどこにあるのでしょう。
都築 それは“ないものは創り出す”という都築家のDNAだと思います。創始者の頼助先生、創立者の貞枝先生は、とても行動力がありましたから。いかに将来の国を支える人材を育成するか。これは、今ではグローバルな人材と言い換えていいと思いますが、この思いは、学園創立から六十数年経っても変わっていません。将来の日本を考えれば考えるほど、まず人を育てることが第一歩です。
高井 そういう思いがあっても、なかなか実行できるものではないと思いますが、先生はどんどんやる。そこが素晴らしいところです。やはり幼少の頃から外国に行かれたり、留学されたりした経験が影響しているのでしょうか。
都築 そうですね。私は15歳から19歳まで、米ペンシルバニアの伝統ある女子校に留学したのですが、当時は“使える”英語ができなかったので苦しみました。数学の問題も、わかるはずなのに言葉がわからないから解けない。それが本当に悔しかった。
歴史や英語の科目は、単語を調べるだけで2、3時間かかるので、睡眠時間は毎日3、4時間。眠気を覚ますために、針で手を刺しながら必死で勉強しました。“英語さえ乗り越えられれば私はできる”と暗示をかけて……。
高井 針で刺しながらなんて、私の世代でも実際にやった人は少ないでしょう(笑)。でも、それが血となり肉となり、国際感覚が養われたのですね。
都築 ええ。アメリカでは、もっと痛切に感じたことがあります。歴史の授業で第二次世界大戦の話になった時のこと。先生が「戦争責任について皆さんの意見が聞きたい」と、アメリカ人はもちろん、世界各国からの留学生全員に意見を求めました。私は「日本の戦争責任をどう思うか」と聞かれたのですが、日本でそんなことは勉強しなかったので、答えに困ってしまって。
高井 日本の高校では近現代史はおろそかになりがちですからね。
都築 そうなんです。だから私が「東京裁判や賠償によって一定の責任を果たしたのではないかと思う」と話したら、「それは歴史上の出来事であり、あなた自身はどう考えるのか」と先生は言うのです。
その問いに答えられなかった時に、初めて自分を日本人として意識しましたし、国際社会ではこういうことに直面するのだということを目の当たりにしました。そして、「英語ができても、自分の中にアイデンティティがなければ通用しない」と痛感したのです。