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京都人が三条通で選ぶ「カツカレー」と「ビフカツ丼」

柏井壽(作家)

2019年03月20日 公開 2023年02月15日 更新

たらたら坂の謎と迎え鐘

三条通から南に折れる新京極通を見ると、ゆるやかな坂道になっていて、これは〈たらたら坂〉と呼ばれていますが、少しばかり不思議な坂なのです。

下り坂の光景を目に焼付けておいて、三条通を少し西に歩き、南に下る寺町通を見てみましょう。不思議なことにお気づきになりませんか? さっきのような坂道ではなく、寺町通は平坦な道が南に続いているのです。

新京極通と寺町通は、わずか数十メートルも離れていません。なのに一方は下り坂で一方は平坦。子どものころからここを通る度、不思議に思ったものです。

そんな界隈、寺町三条を少し上ったところに小さなお寺があります。『矢田寺』です。繁華街にありながら、京都以外の方にはあまり知られていませんが、盂蘭盆のころには大いににぎわうお寺です。

盂蘭盆会に際して、ご先祖さまをお迎えするために〈迎え鐘〉を撞くのは、『建仁寺』の近くに建つ『六道珍皇寺』ですが、ご先祖さまを彼岸へお送りするのに撞くのが、この『矢田寺』の迎え鐘なのです。

『矢田寺』と聞いて、大和郡山にあるお寺を思い浮かべる方も少なくないことと思います。とりわけお花の好きな方なら、〈あじさい寺〉という別名を持つほど、初夏には紫陽花の花が咲き乱れる『矢田寺』をお訪ねになったことがあるかもしれません。

三条寺町に建つ『矢田寺』は、その〈あじさい寺〉の別院として建立されたのが始まりで、天生七年に今の場所に移転してきたのです。

その北隣にある『常盤』は、先に書いた『篠田屋』と同じく、昭和の香りが残る食堂です。場所柄外国人のお客さんも多く、英語のメニューもちゃんと備えてあります。

こういう食堂が京都にはたくさんあったのですが、年々その姿を消し、今では貴重な存在になってしまいました。今風のカフェや、高級割烹、スイーツばかりに目を向けていると、本当の京都の姿を映しだすお店がなくなってしまうのではと危惧しています。

ぜひこの明治11年創業という『常盤』にも足を運んで、名物の〈ビフカツ丼〉や〈ぜんざい〉を味わってみてください。これが本来の京都の味なんです。

寺町通から西の三条通にはアーケードがありません。雨には濡れてしまいますが、空が広くなったように感じられて、開放感もあります。一長一短ですね。この辺りから烏丸通近辺までは、小粋なブティックが点在し、古い洋館も残っていて、レトロモダンな空気が漂っています。

麩屋町通を越えてすぐ、ビルの外階段に隠れるようにして置かれているのが〈弁慶石〉です。この界隈に住んでいた弁慶がこよなく愛していたと言われています。

この石は弁慶が最期を迎えた奥州高館にいったん移送されたのですが、石自らが「三条京極に戻りたい」と言い、そのころから高館で熱病が流行したため、また京都に戻されたと言われています。

この石を撫でると、強い男の子になるとも伝わり、丈夫な男の子を出産したいと願う母親が撫でさする姿もしばしば見かけます。

西に歩き、柳馬場通を越えると左手南側に『イノダコーヒ三条支店』が見えてきます。

屋号が示すとおり、コーヒーの美味しさで広く知られるお店ですが、トーストもお奨めです。〈ハムトースト〉と〈アラビアの真珠〉と呼ばれるコーヒーの相性は抜群です。今や京都を代表するコーヒーショップですが、店名はコーヒーではなく〈コーヒ〉ですからお間違えなきよう。
 

京都の中心で洋館巡り

高倉通を越えてすぐ、北側に建つ『京都文化博物館』の隅っこに〈三条通歴史的建造物案内〉パネルがありますので、洋館巡りをされたい方は、先にこれをご覧になってから歩かれてもいいと思います。

烏丸三条の東南角に建つ『京都銀行』の隅には〈京都市道路元標〉と刻まれた石碑が立っています。

大正時代に法令に基づいて設置されたものだそうですが、元は三条大橋のたもとにあったという説もあり、詳細は不明です。ただ、下のほうが変色していますから、埋め替えられたのは間違いないようです。

烏丸通を西にわたりますと、ビジネス街の様相を呈してきますが、西北角に建つ『大垣書店』を覗いてみましょう。

京都に数少なくなった大型の路面書店ですが、天井も高く開放的な雰囲気なので、ゆっくりと本選びができます。京都本コーナーも充実していますので、ガイドブックを求めるのにも最適です。

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