<<宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」。いわずと知れた名作ですが、すべて読み通したという人は意外に多くないのでは。
その文章を、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんがリミックス。「よだかの星」「双子の星」の2篇も加わって、宮沢賢治の世界がいきいきと立ちあがる一冊の本になりました。>>
※本稿はPHPスペシャル(2019年5月号)に掲載されたものを抜粋・編集したものです
一人の子のために書き始めた
5年ほど前、小学校低学年の子に本をプレゼントしようとしたんです。
そしたら、その年頃の子が自分で読める「ちょうどいい」本はあまりないと感じて、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の漢字に僕がルビを振ったものを作ることにしたんです。
それを人に話しているうちに、本にしましょうということになって。
原作の文章はもちろん美しいし、すばらしいんだけど、読みづらいところもあるなと大人の僕でも感じたんですよね。古典に片足入りかけているというか。原稿の一部が抜け落ちていたりもして、これってデモ音源みたいだなと。
そこで、「原曲」を活かしながら、「編曲」することにしたんです。今の時代の人たちにより読んでもらえるよう、文章に手を入れていきました。
といっても、僕がやったのはノイズを取るような作業です。曲を作るときやエッセイを書くときは、自分らしさを出すことが大事になりますが、この本に関してはまったく考えませんでした。
抜け落ちているところを書き足すときだけは、ほかよりも自分が出たかもしれません。おそらく原稿用紙一枚分が抜けているということで、その分量に収まるようにしました。〇小節内に収まるように歌詞を書く感じです。
物語を追っていると、中盤以降で明らかに宮沢賢治が「ノってくる」ことがわかるんです。ジョバンニが鉄道に乗るあたりから、ストーリーが走り出す。読んでいても夢中になりましたし、そのリズムに呼応するように書いていきました。
プレゼントしたいと思っていた相手にはもちろん渡しました。「いいんじゃないの」なんて言ってましたけどね(笑)。