ひふみんが語る“最後の日”…引退会見が1週間後だった「本当の理由」
2019年10月30日 公開 2022年03月04日 更新
加藤一二三九段。「神武以来(じんむこのかた)の天才」と称され、中学生にしてプロ棋士に。藤井聡太七段(2019年現在)に破られるまで、62年間最年少棋士の記録を持ち続ける一方、2017年には最年長勝利記録も樹立。将棋界において数多の記録を樹立したレジェンド棋士である。
その一方、その天真爛漫なキャラクターと語り口から"ひふみん"の愛称で親しまれ、2017年の引退後も将棋の解説にとどまらず、各メディアに引っ張りだこの人気ぶり。
そんな加藤一二三さんが上梓した新著『感情の整理術123(ひふみ)』では、「怒ったら損だから絶対に怒らない」と決めて、勝負の世界で長年実践してきた「感情の整理術」を披露しつつ、家族に対する思いも語っている。
本稿では同書より、加藤一二三さんの家族への深い愛情を記した一節を紹介する。
※本稿は加藤一二三著『感情の整理術123(ひふみ)』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです。
引退会見を一週間後に開いた本当の理由
平成29(2017)年6月20日、わたくしが負けて家に帰り、妻に負けたと言ったら、なんと驚くことにネクタイを持ってきてこう言いました。
「お疲れさま、これプレゼント」
わたくしは「ありがとう。まだこれから先があるからね」と言ったというのが、引退当日のありようです。引退の日、将棋会館には報道陣が詰めかけていまして、それこそ一言とマイクがきたけれども、わたくしはこう思っていました。
わたくしは、14歳のときから戦って、明日負けると思って戦っていません。
引退の日のことも、負けると思って戦っていないんだから、引退になったその時点で記者会見をするつもりはまったくない。だって、負ける気はないんだから、勝つつもりで戦っているんだから。
それともう一つは、苦楽を長年ともにした妻に、負けたことを真っ先に知らせるのが当然と思っていたのです。それで、妻に負けたということを伝えてから、約1週間後に記者会見をしたというわけです。