視聴者のツイートまで予測!? 広告界を揺るがす「ニューロテクノロジーの衝撃」
2019年12月13日 公開 2019年12月13日 更新
従来の調査よりも、脳活動を見るほうが正確?
新たに開発した商品を評価する時、従来の会場調査などの言語報告データによらず、脳の反応を見るほうが正確な予測ができるかもしれない──
そうした期待が現実味を帯びてきたのは、 fMRIを中心とした脳機能イメージングの進歩と実績によるものです。米国のブライアン・ナットソン先生らのグループが2007年、40種類の商品を見せて購入するかという実験をfMRIの中でおこないました。具体的なプロセスは以下の通りです。
実際に購入させることで、現実の購買行動における価値判断に近似させる手続きをとっています。
1.MRI装置内で商品(チョコレート、カメラなどの日用品)の画像が提示される。
2.提示された商品の価格情報が提示される(各商品の実際価格の0・25倍の価格=min8ドル〜max80ドル)。
3.提示された商品を購入するか回答する。
4.上記を1試行として40試行(40商品)おこなう。
5.各計測終了後、各商品に対する好み度合い(選好度)を7段階で評定してもらう。
6.各商品に対して、買いたいと思う金額を答えてもらう。
7.買うと判断した商品のうち1つが実際に被験者宅に2週間以内に郵送され、購入してもらう。
結果、側坐核(Nacc)の活動が、商品に対する好みの度合いと相関を示し、割安と感じている時は前頭前野内側部(MPFC)の活動量が減少、割高だと感じた時は島皮質(Insula)の活動が増加していました。
さらに、購買行動を予測するために、主観報告と脳活動を回帰子(予測に使うということ)としたロジスティック回帰分析(買うか買わないかの二値予測)をしたところ、主観報告だけの場合より、脳活動を組み入れたほうがより正確に予測ができることがわかりました。
側坐核など、脳の深部にある構造体は、商品への購買動機といった「価値」のコーディングがなされている重要な場所です。現在、ヒトを対象とした非侵襲的な計測では、fMRIが唯一これらにアプローチできる技術です。
そうした利点から、fMRIは商品の価値評価には非常に優位性を持つのですが、一方で課題もあります。
紹介したような商品画像を用いる研究は比較的容易なのですが、スキャナーの物理的・構造的特性(寝っ転がって狭い穴の中に入って一切頭を動かせない)から、実環境に近い形で「飲む」「食べる」「使う」など製品の中身を体験している時の反応を取得することが困難です(嚥下や運動による動きがノイズ・アーティファクトとなるため)。
ただ、そういった課題には、特定のブランドロゴでラべリングしたジュースを飲ませるなど古典的な「条件付け」の手続きを踏んだ視覚実験へと落としこむことで対処できます。
具体的には、図形を見せた直後にジュースを飲んでもらう、ということのくり返しにより、そのジュースの味覚特徴やジュースへの好みが「図形」へ転移(学習)され、図形を見ている際の(飲みこむなどの運動を必要としない)脳の反応が評価できます
これはある意味、消費者がペットボトルの清涼飲料の「味」と「ブランドラベル」を学習し、おいしかったものは店頭でラベルを見て、価値を想起して再購買をするという一般的な過程を実験環境で再現したものであり、現実に即したプロトコルと言えます。
このようにfMRIの測定上の制約を実験プロトコル上の工夫で乗り越えるなどして、「商品」がいかに消費者にとって価値があるのかを従来の方法を超えて評価できるようになってきているので、いろんな製品特性と脳の感じる価値との間をモデル化するなどの試みが進んでいくと思っています。そうすれば、意識上では答えられない価値のある商品設計が実現できるかもしれません。
たとえば、東北大学にいらっしゃる鈴木真介先生は、23名の被験者に56種(果物、甘いお菓子、肉料理、ヨーグルト、サラダ、ポテトチップスなど)の写真を見せ、その食べ物にいくらお金(0ドル、1ドル、2ドル、3ドル)を払うかを決めてもらう実験をfMRI内でおこないました※2。その後、その食べ物に特定の栄養素をどれだけ含んでいそうかを回答してもらったところ、被験者は食品に含まれる栄養素をそこそこ正確に当てられることがわかりました。
そして、その栄養素という商品属性の推測情報にもとづいて、私たちは食べ物の価値を決めていることがわかりました。特に脂質、炭水化物、たんぱく質、ビタミンの4種類の含有量の情報を食品価値(いくら払って買うか)の計算に使っていた(カロリーは無関係)のです。そうした「商品の属性(栄養素)」の情報は外側眼窩前頭皮質(lOFC)で表現され、「いくら出して買うか」という価値の統合は、内側(mOFC)で表現されていました。
このような「製品の特長・仕様」̶「製品の価値」間の神経モデルは、なにも食品だけでなく、日用品や化粧品でも作れます。本質的な商品価値を追求するにあたって、有益なアプローチであると考えています。