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大手電機メーカートップが仏門へ…「定年後出家」を続出させる“仏教の魅力”

鵜飼秀徳(ジャーナリスト・浄土宗僧侶)

2019年12月20日 公開

 

80代で大学入学

驚くことに柴田さんは妻の弘子さん( 82 )とともに、佐々木教授のいる花園大学文学部仏教学科に2019年の春、入学しました。花園大学では、「100年の学び奨学金」制度なるプロジェクトを2018年よりスタートさせています。

50歳を超えた入学者には、年代分の割引(柴田さんの場合、80代なので学費80%引き)が適用できるという制度です。柴田さんは同大学が始まって以来の、最高齢の新入生となりました。

「私の場合、残された人生はせいぜいあと5、6年でしょう。そこで、自分に与えられた人生とは一体、何だったのか。今、この段階で学校に行くことは、人生を振り返るのにとてもいい方法なのではないかと考えました。人生の最晩年に哲学や宗教を学ぶ。実に理想的ですよ」

柴田さんや弘子さんは、孫ほど年が離れた学生と一緒に、授業を受け、ストレッチなどの体育の必須科目も受講しています。

柴田さんは、「若い人たちと学べて、楽しくて仕方がない。これまで仏教を体系的に学んだことがなかった。2年生から受けられる佐々木先生の授業を受講するのが楽しみ」と話します。

そんな柴田さんに対して、佐々木教授もエールを送っています。

「つまり柴田さんの場合、人生で2度、出家されたということですね。最初は定年退職してお坊さんになられた。そして今度は、寺からも出家する、という、稀有なケースです(笑)。

檀家のほぼいない寺の住職だったとはいえ、寺の運営という世俗的なお仕事の面もあったでしょう。そうした部分も今回、ぜんぶお捨てになった。『もはや、しがみ付くものが何もなくなった』という状態でしょうね」

さらにこう続けます。

「柴田さんを見ていると、まさにお釈迦さまの時代の出家のあり方そのものだと感じます。本当に精神的な喜びだけを満たすために、学校に入学されたということであれば、これはお釈迦さまの出家と何ら変わらないですから。こういう柴田さんのようなケースが今後、ますます増えていくといいですね」

 

老後出家という生き方

私自身、自戒を込めて言わせてもらえば、寺に生まれたからといって僧侶としての資質が備わっているかといえば、それは別問題です。若い頃に出家しても、我欲を捨て、執着から離れるのはなかなか難しいことです。

だから、時に世間から「生臭」などと批判も浴びることもあります。僧侶の資質問題が、現代の仏教離れなどにもつながっている側面は否めないでしょう。

そう考えれば、柴田さんのように人生を重ねたシニアに、「老後出家」という手段がもっと、開かれてもよいのではないか、と思います。在家出身僧侶と既存の僧侶が混じり合うことは、仏教界にとっても決して悪いことではないのです。

僧侶とは、職業ではなく、生き方そのものであると思います。老後を仏教とともに歩んでいく。そんな人生も選択肢のひとつに入れられてはいかがでしょう。

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