終末期患者が教えてくれた「幸せな死に方」
2020年01月27日 公開 2021年04月23日 更新
終末ケアを受ける患者20人のポートレートとインタビュー、直筆手紙で構成された「最期の告白」を展示した展覧会が世界各国で開かれた。
これは、アメリカ人フォトジャーナリストのアンドルー・ジョージ氏が米国カリフォルニア州聖十字メディカルセンターの協力を得て行ったプロジェクトであり、世界各国で反響を呼び、のべ16万人が訪れたという。
その展覧会を一冊の書籍にまとめた『「その日」の前に~Right, before I Die~』が刊行された。本稿では、比較宗教学者の町田宗鳳氏が同書より、死を前にした普通の人々の言葉から、超越的多幸感が伝わってくるのは、何故なのかを読み解く。
※本稿はアンドルー・ジョージ著『「その日」の前に~Right, before I Die~』(ONDORI-BOOKS刊)より一部抜粋・編集したものです
誰にでも訪れる「その日」
本書のタイトルにある「その日」とは、言わずもがな、死を迎える日です。
緩和ケア施設で過ごした日々の長短はあれど、死ぬのは一瞬です。そのときに、どういう想いを抱いて逝くのか、これは我々に与えられた最重要課題なのかもしれません。
人は死に臨むと、その反応にしばしば二極化が見られます。恨みつらみを口にしたり、取り乱したりする場合もあれば、穏やかに「ありがとう、幸せだった」という境地に至る場合と。本書に登場する人たちの多くは、後者でしょう。
今日はいい日ね。窓から、木の葉が風で揺れているのが見える。
生きてこの景色が見られるなんて、なんて幸せなんでしょう。
本書のアイリーンさんの言葉からは、超越的多幸感に包まれていることが読み取れます。彼女はこうも続けます。
人生を変えたいなんて、まったく思わない。とにかくベストを尽くすこと。
それ以外に、人生に意味はない。そして自力で幸せにならなくては。
他人をあてにしてはいけない。
この一文は、まさにお釈迦様の最後の教えとして知られる「自灯明、法灯明」のことではないでしょうか。自らを信頼し、自らを希望の拠り所とせよという仏教の教えを、アイリーンさんは、ごく自然に自分の言葉として紡いでいます。
彼女の毅然とした態度は、死は誰にとっても、最高の教師たり得ることを物語っています。