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生き方

なぜ、幸せな定年生活に仏教が役立つのか

鵜飼秀徳(正覚寺副住職・ジャーナリスト)

2020年02月07日 公開 2023年09月12日 更新

定年後に活きる「利他」の精神

――会社員時代にバリバリ働いていても、定年後は抜け殻のようになってしまう人もいます。

【鵜飼】 組織という実体のないものに拘泥しているからではないでしょうか。会社の利益や内部での出世にしか目が向いていないと、組織の外に出た途端、自らの存在意義を失ってしまう。

大切なのは、他者との向き合い方であり、自分との向き合い方です。たとえば、会社の出世競争に疲れている人には「小欲知足(足るを知る)」という言葉を贈りたい。

欲張らず、自らの置かれた環境を素直に受け入れるという意味です。競争や数字に過度にこだわると、心の余裕がなくなり、他人への思いやりも希薄になります。

一方、「足る」を知っている人は心にゆとりをもてるので他人にも優しくなれるし、自分にも誠実に向き合える。人との関係性を大事にする人は、定年後もイキイキと過ごせているはずです。

――とはいえ、現役時代は家族を養う一心で懸命に働き、定年を迎えた人も多いと思います。こうした人に対し、いきなり仏教を活かせといっても戸惑うと思うのですが……。

【鵜飼】 そう思うのも無理はありません。とはいえ、老後は時間ができますから、まずは自分がお世話になった人に思いを致して、自己反省をしてほしい。仏教でいう懺悔です。

懺悔といっても、決してネガティブな意味ではなく、これからポジティブに生きるために自らの人生を見つめ直すのです。

会社員時代、部下に厳しく当たってしまった。仕事に没頭するあまり、家族との時間を蔑ろにしてしまった。自分の本当にやりたいことを我慢してきた……。

これまで生きてきた道を振り返ることで、久しぶりに後輩に連絡を取ってみたり、妻に優しい言葉をかけたりするきっかけになるのではないでしょうか。

――定年後にぎくしゃくすることがある夫婦関係の再構築にもつながってくるかもしれない。

【鵜飼】 いまの50代以上は、家族よりも仕事を優先してきた世代でしょう。だから定年後に急に妻と過ごす時間が増えると、どう接していいのかわからなくなってしまう。

夫婦は最も身近にコミュニケーションをとる存在であり、つまりは自分よりも相手を優先する「利他」の精神を活かすべき関係です。私の実感としては、夫婦関係が良い人は社内の人間関係も良好であり、その逆も然りです。

基本的な人とのつながりや思いやりを実践することで、定年後の夫婦関係も自ずと改善してくるでしょう。

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