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「自分は、酒もタバコもやらない!」…それでも非情な"がん宣告"の現場

刀根健

2020年02月15日 公開 2020年07月04日 更新

 

「なんで自分が?」に対する答えはない

「抗がん剤って飲み薬なんですか?」
「飲み薬も注射もあります」

「僕はタバコも吸わないし、酒も飲まないし、運動も適度にやっているんですけど……」

「それがですね、そうなんです。世の中ね、悪いこといっぱいやっている人いるのになんで自分が?っていうと、答えはもう出ないんです。わかんないんです。タバコ吸わないタイプのがんなんです、刀根さんのは」

「最初にできたのはいつ頃なのかわかります?」
「わかりません。実際はわかりません」

「スピードが遅いってネットで書いてあったんですけど」
「人それぞれです」

「ステージ4か……家族に話すのにちょっと……。ここと、ここと、ここ、大きいの3箇所。あと、ちっちゃいのがあるかもしれない、ということですね……。全身はどうなんですか? ペット検査受けたじゃないですか」

「今のところは、一番遠くに飛んでいると思われるのが反対側の肺と、骨、胸骨、であろうかな、と」

「じゃ他のところ、べつに何か肝臓だとかは?」
「今はなさそうなんだけど」
「今のところはですね」
「はい」

「抗がん剤の治療で入院とかはする必要はないんですね」
「1回はどっかで入院していただくことになります。まず最初」

「どのくらいの期間ですか?」
「薬剤によって変わります。大体どんなに短くても2週間はみていただきます」

「2週間か……髪の毛抜けちゃったり、白髪になったりする可能性はありますか?」
「髪の毛はね……薬によっては副作用もありますのでね。中には髪の毛抜けないお薬もあります。ただ髪の毛でいいますと、髪の毛では死なない」

「ま、別に髪の毛はどうだっていいんですけど」

僕は苦々しく笑った。

 

5年を超えれば本当に安心なのか?

「それ以外にも怖い副作用があります。それもちょっと慎重に考えていったほうがいいと思います。肺がんの病気自体は非常に治りにくい病気なんです。

なので、まあ考え方としてはですね、ま、とにかく進行を遅らす、というのがメインです。まことしやかに身体の病気が全部なくなっちゃいましたというのは、2割以下」

「はー、でもそういう人、2割はいるんですね」
「で、それでいうと、ま、5年生存率で3割に入っている人は、戦いながら6年目を迎える人も当然いるでしょうし、無事に何事もなく6年を迎える人もいるということ」

「5年超えれば一安心。それが目安だということを聞いたことがあるんですが」

「それはですね、この病気が身体からなくなったというような状態になってから5年ということです。だから戦いながら6年を迎えた人が5年経ったからスパッと治療を止めるんですか、と言えばそうではない、ということです」

掛川医師はため息をつきながら、僕の小さな希望を打ち消すように画面を切り替えた。そこには僕の脳のMRI画像があった。

「これ脳みそ。脳みそには転移がない。これ、よかったです」
「最近滑舌が悪くなってきたように思いましたが、気のせいでしたね」

僕は気休めに笑った。

「それとDNA検査をやるんでしたよね」
「内視鏡の生検で細胞はもう採取しましたので、改めて追加してやることはありません。そのとき採取した細胞を検査に回します。

それと、もう一つ私たちが調べていることがあります。それはEGFRという遺伝子の名前なんですけれど、これが刀根さんの遺伝子にあるかを調べます。もしあって、陽性だったら、このEGFRを持っている人に使える分子標的薬というお薬が使えます。

で、もしあったら、これをね、一部の採血とかを研究に使わせていただきたいということ。このEGFRという遺伝子変異が陰性だった場合は次にALK(アルク)というものを調べます。で、もしこれが陽性だったら、これの分子標的薬が使えることになります。これ、段階を追ってやっていきます」

「わかりました」
「この検査に大体10日くらいお時間をいただいております。次は12日の月曜日にいらしていただけますか。もしくは、15日の木曜日」

「これが3日4日ずれたからといって僕の死期が早まるということはないですよね」

僕は痛いジョークを言ってみた。

「それは、誤差の範囲だと思います」掛川医師は眉間にシワを寄せたまま、笑わなかった。

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「自分が死ぬ確率」を調べる指が震えた

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