マネジメントの父・ドラッカーが提唱した、企業における重要な経営指針「ミッション・ビジョン・バリュー」。このうち、変化の激しい市場環境に対応するために最も重視するべきなのはバリュー(ミッションとビジョンを達成するための指針や価値観)だという。
水野元気氏は企業のビジョンの実現に必要な「バリュー」を体現できる人材を「バリューシスト」と呼び、その育成を支援している。
本稿では、水野氏の著書『Valuesist 働き方改革時代に社員のやりがいと生産性を高めるバリュー経営法』より、従業員を会社につなぎとめる待遇以外の重要な要素「エンゲージメント」に言及した一節を紹介する。
※本稿は水野元気著『Valuesist 働き方改革時代に社員のやりがいと生産性を高めるバリュー経営法』(インプレス刊)より一部抜粋・編集したものです
エンゲージメントが重要視されるようになった時代背景
企業と社員の関係を分析する上で「エンゲージメント」という言葉が使われます。私は「会社への愛着」と簡単に訳しています。
元々エンゲージメント(engagement)とは、「約束」「契約」「婚約」という意味があります。婚約指輪のことを「エンゲージメントリング」ともいいますので、なんとなくイメージが湧く方も多いかもしれません。
人事分野で使われる場合は、「社員(会社で働く人)が、働いている会社やそこで働く人、商品やサービスなどに思い入れや愛着心を持っている」ことをいいます。
専門家の方々がこのエンゲージメントを各々定義づけていますが、アメリカの人事コンサルティング会社「Avatar HR Solutions」は、「組織が創り出す価値の一部になるための強い欲求」と定義づけています。
このエンゲージメントは、近年重要視されるようになりましたが、なぜ、そうなったのか? そこには、雇用形態と業務内容の変化が背景にあります。
日本において、1990年代までは終身雇用の風潮が強かったこともあり、入社から定年まで働くのは当たり前でした。さらに、日本の風習として地域や親族・親戚との付き合いが今よりも密接だったこともあり、所属している組織・団体・地域に愛着を持つことがごく自然な文化がありました。
ところが、バブル崩壊でリストラが頻繁に起きるようになると、派遣社員や契約社員などの非正規雇用者が珍しくなくなり、自らの意志で正規雇用を望まない人も増えていきました。
業務についても、トップダウン的な指示で動くのではなく、主体性を求められることも多くなりました。すると優秀な人材の間で、よりやりがいがあり、高待遇の会社へ転職をしながら、キャリアアップを目指す流れが起きはじめました。
こうしたさまざまな要因から、会社への想いは次第に薄れ、キャリアアップ目的に数社をわたり歩くことが世間的にも受け入れられ、その結果、離職率が高くなったのです。
こうした時代背景により、離職率を下げ、イキイキと会社で働いてもらうには、給与や待遇以外の強力な絆が必要であると気づきはじめます。
そこで注目されたのが、「社員(会社で働く人)が、働いている会社やそこで働く人、商品やサービスなどに思い入れや愛着心を持っている」状態の「エンゲージメント」だったのです。