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社会

実は「他人の子と知らずに育てている父親」が多い? 語られない男女間の“不都合な真実”

橘玲(たちばなあきら:作家)

2020年09月17日 公開 2022年02月09日 更新

女の幸せとは何か――。より社会的地位の高い「アルファ」を求め、芸能人との不倫や、「托卵戦略」を繰り広げる女性たち……。SNSが発達した現代において、「令和婚活戦争」が熾烈さを極めている。女性が幸せな結婚を手に入れるにはどうすればいいのだろうか。作家の橘玲(たちばなあきら)が様々な観点から男女の性愛について語る。

※本稿は月刊誌『Voice』2020年9月号より一部抜粋・編集したものです。

 

おじさんと不倫する「女の承認欲求」

――このコロナ禍のなかですら、芸能人の不倫問題はニュース・サイトやテレビの情報番組で話題の上位を占めています。それだけ人びとの「性愛」に対する関心は高いということでしょうか。

本書『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)では、若い男女の「市場価値」がどれだけ異なるかを解説していますが、男性は30歳以上になると「熟女志向」が消失して、興味の大半が20代の女性に集中すると指摘されています。

ただ、同じく「ビッグデータ」が示すところによると、20代の女性が好むのは自分より少し年上の男性で、30代になると同じ年か、少し年下を好むという。にもかかわらず、芸能人の不倫では、若い女性と10歳や20歳も離れた「おじさん」が活躍するケースが多いのはなぜでしょうか。

【橘】進化生物学者リチャード・ドーキンスがいうように、すべての生き物が後世により多くの遺伝子を残すように「設計」されているとするならば、その究極の目的は「生存」ではなく「生殖」です。どれほど長生きしても、子供をつくらなければ遺伝子は途絶えてしまうのですから。

女が男に求めるものは何なのか。それは、子供を育てていくのに必要な安全や食料の確保です。チンパンジーやニホンザルのようにヒエラルキーをつくる社会的動物では、最上位に位置するオスが「アルファ」(第一順位の意味)で、もっとも多くの資源を提供でき、もっとも多くのメスと交尾します。

ヒトの社会も同じで、社会的地位が高い男ほど女の性愛が獲得しやすいでしょう。「おじさん」がモテているように感じるのは、社会的・経済的地位が高くなるにはそれなりに年齢を重ねる必要があるからです。年だけとっても社会的ステータスが低ければ、当然、まったくモテないでしょう。

――ただ、私が同じ20代女性として思うのは、いくら女性にとってアルファな男性が魅力的だとしても、自分が浮気相手であればいずれ破局に至るケースが多い。それこそ若さという資源の浪費のように思えてしまうのですが。

【橘】私は、「人は誰でも自分を主人公とする物語を生きている」と考えています。「売れっ子芸能人と不倫している私」と、「地味な男と付き合っている私」のいずれかを主人公とする物語があったとして、ドラマチックな物語を選ぶ若い女性は多いのではないでしょうか。

もう一つ、女友達のコミュニティのなかで、有名人との不倫の物語を自慢しているというのもあるのではないかと思います。承認欲求というか、女同士のグループのなかでスゴいと思われたいのかもしれません。

 

「一夫一妻制」は男性に有利

――そういう面はあるかもしれません。ただやはり、いくら既婚のアルファと不倫しても、生涯の援助は期待できない。かといって、(アルファより劣る)ベータと交際しても魅かれない。本書の「進化論」に基づく性愛格差が真実だとすれば、つねにそういったジレンマが生じることになります。

では、女性は自分を幸福にしてくれる男性をどうやって見極めればいいのでしょうか。

【橘】大きな資源を持つアルファの男は希少な存在だからこそ、一夫一妻制では、一握りのアルファを獲得するための女の競争が激しくなります。男が競争して女が選択するのがヒトの性愛の基本的な構図ですが、現代では逆に女性たちが「美と若さ」の熾烈な争いに放り込まれている。

――なぜ、そんなことが起きているのでしょうか。

【橘】これはすごく誤解されていますが、もともと一夫一妻制は男性にとって有利な制度です。資産の多寡にかかわらず、平等に一人の妻を持てるのですから。それに対して、一夫多妻では少数の「持てる男」が複数の女を独占し、残りの「持たざる男」は性愛からあぶれてしまいます。

――そんな「持たざる男」と結婚するぐらいなら、自分で稼ぐからシングルで生きようと考える女性が増えている印象があります。しかしそうなると、ますます少子化が進んでしまいますよね。

【橘】かつては親同士の話し合いによるお見合いなどで結婚相手が決められていました。ところが自由恋愛の社会では、自己責任で性愛を獲得していかなければならない。しかも、誰もがSNSを通じて自己表現するようになり、選択肢が急激に広がっています。

昔も性愛を獲得するための競争はありましたが、学校や会社など限られた範囲だった。しかしいまや、SNSを通じて身近には存在しないアルファの男とつながれるようになってしまった。

――たしかに、いわゆる婚活アプリに登録すれば、「年収」と「顔」によって男性をいくらでも検索できてしまう時代ですからね。

【橘】選択肢が増えれば増えるほど、”理想の男性”を決めるのが難しくなっていく。それと同時に、SNSのなかで自分より魅力的な女性を見て不安を覚えることも増えるかもしれません。

女も大変ですが、もっと悲惨なのは性愛競争から脱落した「非モテ」の若い男たちです。これは『上級国民/下級国民』(小学館新書)で書きましたが、アメリカでは恋愛と縁のない男は「インセル(Incel)」を自称しています。

「Involuntary celibate」の略で、「自分ではどうしようもない理由による禁欲状態」の意味です。インセルの特徴はミソジニー(女性嫌悪)で、性の乱れを批判し、一夫一妻の伝統的な性道徳の復活を主張しています。

こうしたインセルのほとんどが白人の若者で、熱烈なトランプ支持者でもあります。トランプの岩盤支持層は、「白人」というアメリカ社会のマジョリティでありながら、社会的・経済的に排除され下層に追いやられた「プアホワイト」ですが、インセルも「性愛から排除された(男という)マジョリティ」として、同じ自己意識をもっているといえます。

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