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生き方

「最後には必ず勝つ人」に共通する”たったひとつのこと”

佐々木常夫(元東レ経営研究所社長)

2020年09月24日 公開 2022年04月25日 更新

 

負けても終わりではないが、辞めたら終わり

もう一つ、「やめたら終わり」に関するエピソードです。東レでは、炭素繊維という事業を手がけています。炭素繊維は鉄の10倍以上の強度をもち、なおかつ重さは4分の1という画期的な新素材です。

06年には東レの炭素繊維がボーイング社の「ボーイング787」に全面採用されて大きな話題となりました。今ではさらに技術革新が進み、自動車の部品にまで炭素繊維が使われています。

東レはこの炭素繊維市場において、断トツのシェアトップを誇っています。これは東レにとって大きな強みです。けれども、ここに到るまでには数々の苦難がありました。東レは何度も炭素繊維市場からの撤退を検討しました。

研究開発を始めてから40年もの間、ずっと実用化がままならず赤字が続いていたからです。東レと同時期に研究を始めた海外の企業も撤退が相次ぎました。

しかし、東レでは撤退が議論されるたびに、最終的にはいつも継続を決定していました。なぜなら「もし炭素繊維を実用化できたら、これは世の中を変えるとんでもない新素材になる」という夢があったからです。

そして「自分たちの技術力だったら、いつか必ず炭素繊維を実用化できるはずだ」という自信もありました。だから赤字が続いても、最後までやめなかったのです。

東レが炭素繊維事業で成功を収めることができたいちばんの理由。それは夢をもち続けたからです。研究開発を最後まで「やめなかった」技術者と経営者の執念ともいえます。

もちろん一方で、物事には「やめなくてはいけないこと」もあります。

スポーツ選手がユニフォームを脱ぐときのように、やめどきを見極めるのも大切です。しかし、多くの人は、まだやめる必要がない段階で簡単にあきらめすぎます。

私たちがやめてもいいのは「思い浮かぶ手段はすべてやり尽くし、どう考えても無理だ」とか「全力を尽くして挑戦したので、なんの悔いもなく別の道に進むことができる」といったときだけなのです。

ですから、夢があるのなら、志があるのなら、その志の火が燃え続けている限りはやめてはいけません。負けても終わりにはなりませんが、やめたら終わりになってしまうのです。

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