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脳科学者が語る「不安やストレス」を克服する“前頭葉の育て方”

茂木健一郎(脳科学者)

2020年11月24日 公開 2022年06月30日 更新

  

地図アプリを使わずに目的地に向かってみよう

ある知り合いから聞いた話です。お子さんが友達と遊びに行ったのですが、「帰りはグーグルマップを使わずに帰ろうぜ」と盛り上がったそうです。

結果的に道に迷ってだいぶ時間がかかったそうですが、スマホの地図アプリを使わずに目的地に向かうという経験そのものが珍しく、「とても面白かった!」と本人たちは満足そうだったとか。

これ、実は前頭葉を鍛えるのにとても効果的です。

見知らぬ土地に旅に出て、迷いながらも面白い店を見つける。飛行機を予約していたのに、アクシデントで飛ばなくなってしまい、さあどうしよう。

こういった状況におかれると、私たちの前頭葉はとても働くのです。便利なものを、時にあえて外してみるのは、日常生活で行える簡単なトレーニングになります。グーグルマップにしろ、カーナビにしろ、そもそも「便利なもの」というのは脳を衰えさせるものですから。

これからの時代は、AI(人工知能)があたかもコーチ役やメンターのように、「次の予定はこれですよ」「この本や映画がお勧めですよ」「この商品とか、興味あるでしょう」といったように、先回りしてさまざまなことを提案してくれる世の中がやってきます。

自分で探す手間や時間が省けるので便利なのはいうまでもありません。

しかし、AIにばかり頼り切ると、前頭葉はますます使われなくなります。自分の脳とAIとの、上手な付き合い方を学ぶべきでしょう。

 

リスクへのチャレンジが前頭葉を成長させる

同じようなことが、経済分野でもいえます。経営戦略の一つに、「ブルー・オーシャン戦略」というものがありますね。「レッド・オーシャン(赤い海)」が、競争の激しいマーケットなどを指すならば、「ブルー・オーシャン(青い海)」は、いまだ競合相手のいない未開拓市場のこと。

レッド・オーシャンで勝負するならば、競合他社から抜きん出るためにより過酷な勝負にさらされますが、一方で、すでにある程度のターゲットも定まっていますし、やるべきことの道筋も見えています。

ある意味、過酷な受験戦争のようなものでしょうか。並外れた努力が必要だけれど、やるべきことは見えているのがレッド・オーシャンです。

反面、ブルー・オーシャンは、海図のない航海に船出するようなもの。そこにマーケットがあるのか、もしあったとしても、そこにどのような可能性が秘められているのか、まだ誰もわかっていません。この時、前頭葉は一番働きます。

そこには楽園があるかもしれない、宝の山が隠れているかもしれない。でも同時に、海賊が潜んでいるかもしれない。あるいは何も価値あるものはないかもしれない。

それでも船を漕ぎ出してみる。リスクを引き受けながらもワクワクする体験は、私たちの脳を鍛える絶好のチャンスとなるのです。

 

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