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「孫正義氏の伝説」に心を動かされたJR九州社長

唐池恒二(JR九州会長)

2021年03月05日 公開 2021年07月16日 更新

 

孫正義の「尋常ではない勉強ぶり」伝説

ソフトバンクグループの孫正義氏は、「自分は世界で一番勉強した」とあっさり言い切ります。まったく気負いが感じられません。猛勉強を苦にしたという様子は微塵もありません。人間として当然のことをしたまでだ、といわんばかりです。

あるパネルディスカッションでご一緒したとき、その話しぶりのわかりやすさとおもしろさにはいたく感じ入るものがありました。パネル方式で「夢」「信念」「勉強」とか経営哲学を並べ、全体を眺めながら説明を加えていく。

そして実はその包括的テーマが、本人の大好きな坂本龍馬であったりと、きちんとオチまでついている。孫氏は、少年時代から一人の英雄に憧れます。その人こそ、坂本龍馬です。ソフトバンクのロゴマークは、黄色の2本線ですが、これは龍馬が長崎につくった海援隊の隊旗のデザインから取ったものです。

龍馬は若くして土佐藩を脱藩し江戸に上りました。最初は剣術修行を目的としましたが、多くの人と出会う中で世界に視野が広がります。のちに薩摩と長州という、当時対立していた幕末の二大藩の仲を取り持ち、薩長同盟を結ばせ倒幕の大きなきっかけをつくりました。いわば、歴史を動かしたわけです。

孫少年は、物心ついたころにはもう、憧れの龍馬と同じ人生を歩もうと決意します。まるで龍馬が土佐藩を脱藩したように、孫少年も福岡の名門である久留米大学附設高校をわずか3カ月で中退します。

孫氏は日本国内ではなく、いきなりアメリカをめざします。単身渡米し、英語のハンディを乗り越え、独学で名門中の名門、カリフォルニア大学バークレー校に入学します。

大学在籍中の孫氏の勉強ぶりは尋常ではありません。トイレに行くときも、食事をするときも、教科書を手放しません。道を歩くときも教科書を読み、運転するときもカセットテープに授業の内容を録音したものをイヤホンで聴いたそうです。睡眠時間も最小限にし、勉強に没頭しました。

 

日本電産創業を支えた「知的ハードワーキング」

日本電産の創業者・永守重信氏も猛烈な勉強を積み重ねてきた一人。というより、勉強の権化のごとき人物です。同社の三大精神は、「情熱・熱意・執念」。そしてよく知られたワーディングが「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」。

私は永守さんに迫力やスケールはとても敵わないけど、それに私よりずっと社員にも厳しいけれど、ひとつ共通点がありまして、私と同じで社員に対してものすごく愛があるんです。だから、社員に対しても多くを求めることができる。

「知的ハードワーキング」はすなわち、猛烈な勉強を意味します。創業当初は日本企業からの受注に苦戦していました。そこで、永守氏は米国での営業に力を入れようと考えました。永守氏自身が渡米し、熱心なセールス活動を展開します。

ほとんどの企業からは門前払い同然となりましたが、運よく3M(スリーエム)社との商談に漕ぎつけました。3M社からカセットテープ向けのモーターを5億円分受注することに成功したのです。

その際、どこまで小さくできるかと聞かれ、永守氏はとっさに「3割小さくする!」と約束してしまいます。帰国後は、また猛勉強。3割小さくしたモーターを開発すべく、徹夜で試作を繰り返します。そして、ついに期限までに約束通りの製品を完成させたというわけです。

この3M社からの受注が転機となり、日本電産は業容を急速に拡大していき、今や世界一の小型モーターメーカーとなりました。

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