今どきの「本を書きたい人」がぶつかる壁 出版社の編集者はどこに着目するか?
2021年03月16日 公開 2022年10月12日 更新
最近、出版社が著者に求める“SNSのフォロワー”
翌日、また彼女から電話がかかってきて、「今、著者としてデビューするには、数万のSNSのフォロワ―が必要だと聞きました。私はまったくいませんが大丈夫でしょうか?」と言ってきました。
これが現在の出版界の潮流です。新人の場合、ツイッターなどのSNSでフォロワー数が数万人いなければ、そもそも編集会議に上げないという出版社もあります。
これに関しては、いい面も悪い面もあります。いい面は日頃、読者の反応を見ながら文章を書いているので、読者のことをよくわかっていることです。なので好感の持てる文章を書きます。
実際、弊社でも著者にSNSを活用ことを勧めています。書き続けていると文章はうまくなってきます。また、出版社側からすれば、ファンが一定数いるので購買が見込め、商売上のリスクを減らしてくれます。
悪い面は、この潮流のために、書き手が自分のコンテンツを深めるよりも、SNSのフォロワーを増やすことに注力していることです。
フォロワーがいないと心を悩ます人にお伝えしたいのは、いれば有利になりますが、いなくてもじゅぶん巻き返せるということです。
弊社は毎年15人ほどの新人作家を世に出しています。そのなかでも社会的評価を高く受けた書籍やベストセラーとなった書籍の著者の半分ほどは、SNSでのフォロワー数は多くありません。
たとえば、「東大読書」の西岡壱誠、「未来の医療年表」の奥真也、「世界最高の子育て」のボーク重子さんなど、出版当時にSNSで影響力を持っていたわけではありませんでした。
また、「内臓脂肪を最速で落とす」の奥田昌子医師はそもそもSNSをやっていません。フォロワー数はいなくてもこのコンテンツであれば、社会が求めている内容と一致すると私たちが確信したからです。私たちがかかわっていない著作物でも、そういうデビュー作は多くあります。
出版において、フォロワーよりも重要なこと
要は企画を判断する人次第です。フォロワー数にそれほどとらわれず、企画内容を重視して検討いただく編集者に検討してもらえばいいのです。
とはいうものの、書籍を市場で売るには世間への認知が必要です。ひと昔前までは、新聞に大きく広告を出していましたが、今は、コストの関係でそれはできない。そこでネットの力を借ります。
で、具体的にどうするかというと、書籍の発売とタイミングを合わせて、各種のネット媒体で書籍の中身を材料にして記事を出す、広告の代わりにプレスリリース等でニュース化を狙うなどして、著者と書名の認知度を高めていきます。そこで、100万人を目標に、こんな人がこんなことを言っていると認識してくれるよう努力します。
結論として、小説などの物語以外は、やはり、人の困ったことに対する問題点を解決する方法や、人の知らないことを書くことが重要です。
ちなみに、先のバレリーナの方は、「はじめはダイエットの本が出版ができるということで喜んでいたのですが、考えてみると、やはりどうしてもバレリーナとしての書籍を出したい。それ以外は興味がない」とのことでした。
なので、私との、出版を通してのお付き合いはなくなりました。しかし、これも、いい判断だと思います。書籍はネットと違って、いったん世に出したら、市場から回収なんてほぼ不可能です。なので、納得いくコンテンツで、出版に挑戦するのが重要だと思います。