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「あなたのためを思って…」 周りの人をイラっとさせる“ずるい言葉”

森山至貴(早稲田大学准教授)

2021年07月26日 公開 2023年08月17日 更新

 

親子の会話【1】 悪気がないから

(子)髪の毛が外国人みたいって、友達に言われた
(親)染めてないのに、色が茶色っぽいから?
(子)そう。時々言われるたびに人と違うって思われて、傷つくな……
(親)まあ、相手も珍しいだけで、悪気はないんだから許してあげたら?

「悪気がないんだから、許してあげたら?」は、親の果たすべき役割を放棄する「ずるい言葉」です。

この言葉には悪気がなければ許すべきという意図があり、「許さないのは心が狭い」「悪意がない行為に勝手に傷ついた」というメッセージを与えかねないからです。

子供が自発的に「悪気がないのだから許そう」と思っているならまだしも、親が加害者の側に立ってしまい、自分の子供の心のケアを二の次にしています。

さらには、「珍しい」「悪気がない」が許される理由に相当するという価値観を子供に植えつけてしまっています。珍しいからといってジロジロ見たり、からかうことは社会的に許される行為ではありませんし、許しを請うなら全面的に自分の非を認めて謝ることが第一歩です。

この場合、親はまず子供に共感して寄り添い、今度言われたらどう行動するか、どう考えるかなどを親子で話し合うべきでしょう。

 

親子の会話【2】 時代のせい

(子)何で学校で掃除をするとき、ぞうきんを使って拭かないといけないの?
(親)水の冷たさとか、掃除の大変さを知るのはよいことだと思うよ
(子)バケツの水は汚いし、モップとか使ったほうが、早く終わるのに
(親)それが普通だったのさ。昔は校舎がもっと汚かったんだよ。今はまだマシなほうだから、我慢しなさい

「○○が普通だった」「昔は○○だった」という決まり文句は、目の前の現実に向き合うことから逃げる「ずるい言葉」かもしれません。

この会話では、子供が「ぞうきんはもはや合理的ではない。モップにすべき」という建設的な提案をしているのに対し、親は「今はマシなほうだから、我慢しなさい」と聞く耳を持ちません。

これは「理不尽があっても飲み込みなさい」と教え込んでいるようなもので、非常に危険です。なぜなら、子供が将来、理不尽に直面しても思考停止して我慢するだけの人になってしまうかもしれませんし、他人に対しても理不尽を強いることに抵抗感がなくなってしまうからです。

「普通」「昔」は、自分の価値観や成功体験を押しつける際に便利に用いられやすいワードでもあります。日頃からこの言葉を使いがちな人は要注意。周囲の人には「また始まったよ」「時代遅れの人」と呆れられている可能性大です。

 

親子の会話【3】 決めつけ

(子)中学校に入ったら新しくサッカーをやりたいな
(親)えっ、せっかく小学校まで野球を続けてきたのに?
(子)新しいことも始めてみたいんだ
(親)続けてみないとわからないこともたくさんあるのに根気がないなあ。チームメイトも皆続けるみたいだし、中学でもやってみると良さがわかるかもしれないぞ

「根気がないなあ」という発言からすると、この親は野球を継続してほしいと思っているのでしょうか。だったら、「頑張ってきたのだから続けてほしいな」「なぜ野球を止めたいの?」と正面切って自分の言葉で伝えればいいのに、「根気がないなあ」と子供の欠点として片づけてしまうのは「ずるい言葉」です。

さらに「皆続けるみたいだし」という言葉は説得力ゼロ。多くの親は「よそはよそ!うちはうち!」という決まり文句で子供の要望を却下してきたはずで、都合のいいときだけ「皆」を持ち出す親のずるさに、小学校高学年ともなれば気づきます。

こうした詭弁で封じ込める対話しかできない親は、遅かれ早かれ子供に見限られます。また、子供自身も、自分の意志や感情をきちんと伝えず、こうした「ずるい言葉」で他人をコントロールしようとする大人にもなりかねません。「ずるい言葉」は時に負の連鎖を生むのです。

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