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「あなたのためを思って…」 周りの人をイラっとさせる“ずるい言葉”

森山至貴(早稲田大学准教授)

2021年07月26日 公開 2023年08月17日 更新

 

夫婦の会話【1】 間違った判断基準

(テレビを観ていて)
(妻)このコメンテーターって人気高いよね
(夫)女性だからね。やっぱり美人は得しているよ
(妻)そんな言い方……、それって今の時代、セクハラになるよ
(夫)美人ってただ褒めただけだよ。そうやって、あれもこれも言っちゃだめって言われると、もう何も言えなくなるよね

ずるい言葉を凝縮した"煮こごり"のような会話例です。まず夫の「美人は得」発言。世間では「美人すぎる○○」などの枕詞もよく聞かれますが、明らかに女性蔑視発言。

本人の能力やスキル以前に「美人である・美人でない」が第一の判断基準だと表明しているようなもの。妻はセクハラ発言だと指摘しますが、「美人と褒めただけ」と悪びれる様子もない。

しかし、例えば女性社員が業務報告をしているときに、上司から「ヘアスタイル、かわいいね」と褒められたらどうでしょう? 褒め言葉も場を間違えればハラスメントです。

最終的に夫は「もう何も言えなくなるよね」と被害者ぶった捨て台詞に及んでいますが、実はセクハラ、DVなどの加害者は、自分を被害者と弁明する傾向にあることが、犯罪研究から明らかになっています。この夫は無自覚のハラスメント加害者になりやすいタイプ。しかも、明白な悪意がないだけにやっかいなのです。

 

夫婦の会話【2】 余計なお世話

(妻)職場の前の上司が、自分では何もしないくせに厳しくて
(夫)今はのびのび働けているようでよかった
(妻)もうあんな嫌な思いをするのはこりごりよ
(夫)まあまあ、今の我慢強い〇〇を作ったという意味では、いい経験だったんじゃない?

つらい体験が「いい経験だった」「おかげで成長した」と言っていいのは、本人だけです。この会話では、当の本人である妻が「あんな思いをするのはこりごり」とネガティブに捉えているのに、夫がポジティブな方向に結論づけるのは、勝手に"美談"に仕立てる余計なお世話。妻をさらに傷つけるリスクがあります。

「いい経験」と結論づけることは、上司のおかげで改善されるような足りない点、弱い点が妻にあった、ということを意味してしまっているからです。

うがった見方をすれば、この夫は妻の重めの話をさっさと終わりにしたくて「いい経験だったね」と過去のものとして片づけているようにも見えます。

夫は、「妻の気持ちを前向きにしてあげたかった」だけかもしれませんが、「大変だったね」「今は楽しそうで良かった」と共感してあげるだけで十分です。最後の余計なひと言で、夫の独りよがりが露呈してしまっています。

 

夫婦の会話【3】 周りにいないから気持ちがわからない

(夫)同僚がメンタルダウンして、休みがちになってるんだ
(妻)数カ月前にもそんなことがあったよね。そこまでつらい仕事でもないでしょうに
(夫)感じるつらさは人それぞれだから
(妻)サボっているわけではないんだろうけど、私の周りにはいないから、気持ちはわかんないや

妻の「そこまでつらい仕事でもないでしょうに」発言は、そこはかとなくパワハラ気質を感じさせます。そもそも妻は夫の同僚の仕事や置かれた状況について詳しく知らないでしょうし、知っていたとしても「何がつらいか」は人によって異なります。

夫に「人それぞれだから」と諭された途端、今度は一転して「気持ちはわからないや」と突き放しています。 

最初は同僚をジャッジまでしていたのに、「私の周りにはいないから」と自己弁明までして「わからない」とシャットアウト。ここでいう「わからない」という発言は、実に「ずるい言葉」です。

この場合は「仕事のプレッシャーが強すぎるのかも」「事情があったのかも」といくらでも推し測ることはできます。ずるい言葉を使う人は「自分はわからない」「自分はわかっている」を都合よく濫用します。

自分の決めつけだけで、事実や相手のことは完全に置き去りにしていないか、気をつけたいですね。

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親子の会話【1】 悪気がないから

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