「遅刻癖がやめられない」「夜に寂しくなってしまう」「後悔してばかり」…。このような「ついやってしまうこと」「できないこと」で悩んでいる人も多いでしょう。じつは生物学的にはそうした行動や感情は、人間の遺伝子に予め組み込まれており「やめられなくても当然」であることが判明しています。このような、人間が「努力してもしょうがないこと」の秘密と対処法を、明治大学教授で進化心理学の第一人者である石川幹人氏が解き明かします。
※本記事は石川幹人著「生物学的に、しょうがない!」(サンマーク出版)より抜粋でお送りします。
幸福な状態ほど「幸福」には感じない
まず、幸福感の由来を生物学的に考えてみます。動物は、うまく生き残って子孫が繁栄するのが生物学的にいいことになっています。だから食べ物が十分にあり、かつ安全な状態が幸福になるように思えます。
ところが現実はちょっと違います。生物学的に感情は、動物の行動を起こしたり方向づけたりするものです。現状が満ち足りた状態であると、新たな行動を起こさなくてよいので、感情が喚起される必要がないのです。つまり、幸せなはずの状態では、幸福感は喚起されないことになります。
じつのところ幸福感は、「これからよい状態になるぞ」という期待によってもたらされるのです。あなたも「休みをとって旅行に行くぞ」というときには、幸福感に包まれるけれど、いざ行ってみると意外に気疲れも多く、思ったほど幸せではないという経験があるでしょう。
では、幸福を感じにくいとして、なぜネガティブになるのでしょうか。それは人間が未来志向だからです。将来のことをあれこれ想像すると、ちょっとしたことが心配になります。現在が満ち足りた状態であればあるほど、未来は現在よりも悪くなると考えてしまうのも、当然です。
後ろ向き思考も不幸になる一端
おまけに過去も想像すると、もっと始末が悪いのです。過去の選択を後悔して、「あっちの道を進んだら、もっと現状はよくなっていたかもしれない」とネガティブになります。生きていられるほどの幸せな状態に今あっても、もっと上へ上へと気持ちが高まってしまい、後悔が深まるのです。
現代社会は「選択肢が増えた不幸な社会である」と主張する学者もいます。一見「選択肢が増える」と幸せに思えますが、あまりに増えると選びきれなくなります。そこで「もういいや」と適当に選ぶと、後でもっといい選択肢があったことがわかり、悔やんで不幸になってしまうのです。
最近では寿命も延びて「人生再チャレンジだ」と言われる社会になってきました。「生きていられるくらいで満足しないで、上を目指してがんばれ」ということです。そうすると経済も回るし、みんなも豊かになるので、政府は旗振りをします。
いい状態で生活している人たちが、現状に満足せずにネガティブになって、心配しながらがんばるというのが、現実の社会なのです。なんか変なのですが、そういう社会になってしまったので、仕方がないですね。今のところ、受け入れるしかありません。
まあ、ネガティブになったら、ネガティブさは「現状が幸せなことの証だ」と思いながら、ちょっとだけがんばるのがいいでしょう。