「遅刻癖がやめられない」「夜に寂しくなってしまう」「後悔してばかり」…。このような「ついやってしまうこと」「できないこと」で悩んでいる人も多いでしょう。
じつは生物学的には、そうした行動や感情は人間の遺伝子に予め組み込まれており、「やめられなくても当然」であることが判明しています。このような、人間が「努力してもしょうがないこと」の秘密と対処法を、明治大学教授で、進化心理学の第一人者である石川幹人氏が解き明かします。
※本記事は石川幹人 著『生物学的に、しょうがない!』(サンマーク出版)より抜粋でお送りします。
忘れることで生活できることもある
忘れるのは悪いことでしょうか。実際のところ、そうでもありません。私は仕事柄、各地の大学や研究所によく出張します。そのときは数日間ホテル住まいです。同じホテルに滞在することもよくありますが、数年前に泊まったことが「うろ覚え」になっているのは、結構便利です。
考えてみてください。数年前に泊まったときのことを完全に覚えていたら、同じホテルに泊まるたびに異なる部屋になることに混乱します。私は仕事から帰るたびに「ちゃんと今回の部屋にたどり着けた」と、「うろ覚え」に感謝しています。
それに、近くの観光地を散歩してから「あ、また来てしまった」と過去を思い出しますが、何度も楽しめるのはいいことでもあるのです。忘れるのも大事なことです。
人間は忘れるようにできているのに、文明がそうさせない
人間は忘れる動物です。ほかの動物だってそうです。何度も同じ体験をすればさすがに学習しますが、基本は忘れるものなのです。でも、約束を忘れるのは、悲しいかな、ダメですよね。
約束は、文明の時代になって人々が大幅に分業を始めたせいで、重要になりました。「あなたが何日後までにやってくれる作業の成果にもとづいて、私はその次の作業をするから準備しておくね」といったように約束がなされるのです。約束が守られなければ、次の担当者が困り、ひいては文明の分業体制が成り立たないのです。
それに対して私たちは、約束を守ることに慣れておらず、重要さの認識がいまひとつです。それに約束の内容がたびたび変われば、ますます覚えにくくなります。
だから、約束を紙に書いて壁に貼っておいたり手に書いておいたりと、工夫してきたのです。今では、スマホにスケジューリングしておけばなんとかなるという人も増えてきました。
現代社会では約束を守るのは個人の責任とされがちですが、守りたくても守れない人も大勢いるのです。約束を守りやすい状況作りや、約束が守られなくても大ごとにならない環境作りも大切です。