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生き方

母親に手を上げた15歳の息子の本心…心の矛盾とSOS

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年09月15日 公開 2024年12月16日 更新

人生の危機ともいうべき逆境や大きな挫折を経験して、ダメになってしまう人もいれば、それをバネにして輝きをます人がいる。その違いはどこにあるのか?

心の「回復力」というべき「レジリエンス」をキーワードに考えれば、その答えが見えてくる。

※本稿は、加藤諦三著『心の免疫力 「先の見えない不安」に立ち向かう』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

母親はなぜ息子に殴られたのか

50歳の母親からの相談である。夫との間に、18歳と15歳の息子がいる。この15歳、中学3年生の家庭内暴力についての相談である。息子は「自由がない」と言う。だが、クラブ活動もしていて、楽しそうである。

母親は「自由がない」ならクラブ活動をしなくてもよいと考えている。母親が「家庭教師に来てもらうのもやめてもよい」と言うと、息子は、続けると言う。

先週、この息子が母親にひどい暴力を振るった。殴られ、蹴られ、髪の毛をつかまれて振り回された。母親は、この息子に恐怖感を抱いた。その後、息子は、自分の部屋にこもってしまった。 

母親は息子に、暴力でできたアザや傷を見せる。「そんなの知らない」と息子は言う。「何も思わない。何も感じない。親なんかどうでもいい」と言う。母親は、どうしたらいいのか分からない。息子に声をかけると「うるさい、ウザい」という言葉が返ってくる。

息子は自分の心の矛盾に苦しんでいる。成績が悪くて、「どうしよう」と思っていた。中学の3年間、ずっと思っていた。母親は「息子の成績がよくない」と嘆いていた。この言葉に、息子は怯えている。息子の感情は、助けを求めている。「僕を助けてくれ、僕は限界だ」と叫んでいる。

暴力は防衛である。殴る蹴るは、息子の感情の表れだった。最初に息子が暴力を振るった時に、母親が「立ち向かえば」、その後二人とも立ち上がれただろう。怖いと思って殴ったら、ひるんだ。それは息子にとってショックだった。

ライオンだと思っていた母親は、蟻のような存在になった。こんな存在に怯えて恐れていたのか、捨てられると恐れていたのか。そう思って自分に腹が立つ。母親がひるんだのは、母親自身の満足のための教育だったからである。

もし母親が、「息子が元気で生きられればそれでいい」という気持ちで接していたら、事情は違った。そうならば、息子の心は豊かになっただろう。

しかし母親は「このアザのことは、忘れないでね」と言った。気の弱い息子にとって、この言葉は「重い十字架」である。

 

レジリエンスのある人の特徴

定期試験の成績が出る。その報告を巡って、また揉める。「効果がないなら家庭教師にやめてもらったらどうか」と息子に問う。実はこれは、母親による脅迫である。母親は自分の不安感を、家庭教師の教え方への疑念にすり替えているだけである。

こういう時、レジリエンスのある母親ならどう言うか。たとえば、「次回に結果を出すための方法を、家庭教師と考えなさい」と言う。息子は家庭教師に相談するだろう。家庭教師も、授業内容や教え方を考えるだろう。結果、息子も家庭教師もモチベーションが上がるに違いない。レジリエンスのある大人とは、そういう効果的な大人のことである

レジリエンスのある母親になるには、どうしたらいいだろう。息子が抱えている現実と向き合って、おどおどしない。ぶれない。これがレジリエンスのある母親である。目の前の現実に向き合い、立ち向かう。それができれば、「何をしても自分は守られている」という感覚が子どもにできる。

この家の問題は、母親が腹をくくらなければ解決しない。

レジリエンスのある人には、4つの特長がある。
(1)プロアクティブ(前向き)な心構えであること
(2)ものごとをプラス面から見られること
(3)他人の助けを得るのがうまいこと
(4)信念があること
である。それぞれの特長を、これから説明してゆこうと思う。

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特徴(1) プロアクティブな心構えであること

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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