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生き方

必死に生きてきた夫が苦悩する「妻のいない生活」

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年09月22日 公開 2024年12月16日 更新


※写真はイメージです

どんな困難も、今を最終点の幸せにたどりつくまでの「経過」ととらえれば、乗り越える力が湧いてくると加藤諦三氏はいう。

コロナ禍で誰もがしんどい思いを抱えている今だからこそ必要な、心の健康に保ち、前向きになれる最強の思考法とは?

※本稿は、加藤諦三著『心の免疫力 「先の見えない不安」に立ち向かう』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

体を張って困難に立ち向かうと見えてくること

40歳の既婚女性である。小さい頃に親から虐待を受けた。夫も親から虐待を受けていた人である。9歳の息子は、頻尿や自傷行為に苦しんでいる。すでに学校に一人で行けない。

夫は「悩んだ自分は、中学時代から無表情になった」という。夫婦ともお互いひねくれている。顔を合わすと喧嘩になる。夫はパニック症候群で、満足に働いていない。小さな会社の経営者だが、人任せにしている。お互いに頑張ったが、もう限界に達している。もう疲れ果てて頑張る気力がない。

そうした時に、妻が病気になって入院した。夫は妻の看病をしなくてはならないことは、頭では分かっている。でも、分かっていることをするエネルギーがない。夫の話を聞いていて、聞いている方が落ち着かなくなる。それは夫の心の中に、怒りや憎しみや不満があるからである。

夫にはもう生きるエネルギーがない。妻も生きるエネルギーがない。夫は働けなくなるまで一生懸命頑張って生きてきた。そして今、妻のいない生活になった。もう疲れ果てた。夫は妻を「かわいそうだ」と言う。そういう時の「かわいそうだ」には愛はない。自分が一番都合の良い位置を探している。

しかし、ここが頑張りどころである。レジリエンスがあるかないかである。レジリエンスのある人は、行き詰まった時には体を張る。体を張るといろいろなことが見えてくる。「あれ、体温が違う」と気付く。気分が良くなるように顔や体をふいてあげる。

そして妻に言う。「俺がそばにいるから」レジリエンスのある夫は妻に、「会社を潰してもかまわない。命の限り頑張ってくれ」と言う。強くなって体を張ってみると、「今日は足をふいてあげよう」とか、することが見えてくる。足をふいてあげる。暖かいタオルで足の裏をきれいにしてあげる。

言葉はなくてもよい。体を張るということは大声で「頑張るぞー」と怒鳴ることではない。愛することである。

 

心は生涯、発達する

まさにレジリエンスのある人は、愛することができる。愛するとは、相手の立場になって考えることである。今までは、夫婦ともに「私を認めてほしい」と言っていた。愛されることを求めていた。それでお互い、意図せずに傷つけあっていた。夫は息子にも目を向ける。

頻尿や自傷行為に苦しんで、学校に一人で行けない9歳の息子が、校門まで行けた。でもそこから先には無理だった。「俺がそばにいるから」と息子が安心するように優しく言ってあげる。なかなかすぐには言えないかもしれない。

突然に心理的成長をすることはない。突然にレジリエンスが生じるわけではない。しかし、いつかそう言えるような人間に成長している。レジリエンスのある人は、突然レジリエンスのある人になったわけではない。レジリエンスのある人になるように生きてきたのである。

長年にわたって「心」を大切にして生きてきている。その結果、レジリエンスのある人に成長している。ヒギンズは、仮説として、心理的健康と心理的成長は生涯発達すると主張する。今、「俺がそばにいるから」と妻や息子が安心するように優しく言ってあげることができないとしても、やがてそう言える日が来る。

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人生とは「自分自身を征服する歴史」である

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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