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シリコンバレーの思想家が直言「日本人が成功を遠ざけてしまう理由」

ケヴィン・ケリー(元『WIRED』創刊編集長)

2021年10月13日 公開

 

日本人に必要なのは「失敗会議」だ

イノベーションというものは、非効率さや失敗から学ぶという性格のものです。ですからシリコンバレーでは、「前向きな失敗」という言い方もあり、失敗して転んでも、そこから立ち上がれば何かを学べると考えます。

シリコンバレーの大きなイノベーションは、失敗を道義的問題にしないことで生まれています。それこそ科学が行なってきたことですが、実験をして失敗しても、それを成功のための一部と考えて責めないのです。日本でも失敗や再チャレンジがもっとしやすくなれば、イノベーションが起こりやすくなると思います。

また最近のスタートアップでは「アジャイル開発」が注目されていますが、それは普段からなるべく小さな失敗を重ねておき、それが溜まって大きな失敗につながらないようにするということです。

次々起こる失敗も小さなうちにすばやく対応することで、慢性化させずに危機的状況を避けられます。いくら損したと責めずに、これでいいと考える。最近のトレンドでは、こうした小さな失敗は小さい形で早期に起こしてしまう方向ですね。

例えば、シリコンバレーにある「インディーバイオ」というインキュベーターは、まったくのスタートアップを15社抱えています。そして各社に25万ドル(約2750万円)ずつ与えて、研究所に4カ月間入れるようにします。そしてその期間が過ぎるとデモ(プレゼンテーション)をする日が来て、多くの投資家の前で成果を発表し、卒業となります。

4カ月間は自分のアイデアを徹底的に試しますが、周りの全員が助けてくれます。25万ドルという少額の援助と、4カ月間の研究室の使用資格およびサポートを受けられます。そして4カ月後の卒業にあたって15人の卒業生がデモをして成果を示すのです。

その結果、さらなる投資を得てプロジェクトを続けられる会社もあれば、そこで終了となる会社もあります。100万ドルの投資で1年間トライしても、失敗するかもしれませんよね。でもこの投資は4カ月で25万ドルです。とてもスピーディーで、たとえ上手くいかなかったとしても、失敗は最小限です。

これこそがアジャイルであるということです。もしかしたら、投資家が改めて4カ月の猶予をくれるかもしれません。または、25万ドルあるいは倍の50万ドルを出すから、6カ月後に成果を見せてくれという話があるかもしれません。

では、こういう文化を他の国、例えば日本で育てるにはどうすればいいでしょうか? 日本の友人からは「日本では失敗は『恥』であり非常に難しい」と聞きます。

例えば、失敗した人が、自分の経験を成功した人に対して語るというのはどうでしょうか。失敗を前向きなものにし、社会的に受容できるものにするために、失敗事例だけを扱う会議を開催するのです。

参加者は他の参加者を尊重し、そこでは失敗の話しかしないのです。どんな失敗をしたか、どのように失敗したかを競い、失敗して一番大きな損失を出した人に賞をあげる。私はあなたより損したから偉いと自慢する(笑)。

実際に私の友人で、2年前に記録的な損を出して失敗した人がいます。500万ドル(約5億5000万円)という多額の損失です。彼のスタートアップは多額の損金で破産しましたが、彼はそれを自慢にしていました。

 

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