「無題」21×29cm、紙に鉛筆、2014
世界的人気を誇るK-POPグループ、BTSのリーダー・RMが読んだことで話題となっているエッセイ『それぞれのうしろ姿』。音楽活動の傍ら国内外の美術館を訪れたり国立現代美術館 ソウル館に寄付をしたりとアートへの愛が深いことで知られるRMは、本書の著者アン・ギュチョルさんの個展を訪れ書籍にサインを求めた。
現代美術家が創作の過程で見つめたさまざまな事物の裏側は、わたしたちの世の中への見方を変え、あらたな視点をもたらしてくれる。『それぞれのうしろ姿』に収録された67のエピソードのなかから、5つのエピソードを紹介する。
※本稿は、アン・ギュチョル著「それぞれのうしろ姿」(&books/辰巳出版)から一部抜粋・編集したものです。
風になる方法
風に揺られながら、木は種を風に乗せて遠くへ飛ばす術を思いついたのだろう。ひとつところで生息する植物の限界を超え、はるか彼方へ風のように旅する方法を。種は、まるで宛名のない手紙のようにさすらい、風が止まる場所に、まったく見知らぬところに根を下ろして芽を出す。
木々は静物ではない。時間のリズムが違うだけで、木もわたしたちのように動きつづけている。ふいに若葉を震わせ、時には枝を揺さぶり折る獰猛な風に身を任せながら、木は風に乗って空を翔たいと思ったはずだ。
けさ、涼しくなった秋風に舞う木の葉を見つめながら、わたしは風から何を学べるか考えてみた。風になる方法、風のように現れ、風のように消える方法、見えない手で事物をなで、止まっているものを動かし、地面に落ちたものを天に舞い上がらせる方法、そしてときにぐるぐると渦巻く心を静める方法を会得できるか考えてみた。
「愛の木」30×40cm、紙にインク、2015