専門知識や資格より重要な「基礎力」とは何か?
2012年02月27日 公開 2022年12月27日 更新
今我々は、職業寿命の長期化による転職の可能性の増加や、ビジネス環境の激しい変化などへの対応を求められている。これまで以上に、どのような仕事をするにしても基礎的な能力が必要になる。リクルートワークス研究所所長・大久保幸夫氏に近年、産業界で重要視されている「基礎力」とその背景について解説して頂いた。
※本稿は、大久保幸夫著『30歳から成長する!「基礎力」の磨き方』(PHPビジネス新書)より一部抜粋・編集したものです。
なぜ今「基礎力」が注目を集めているのか?
世界中で「基礎力」が話題になっている。一種のブームとも呼べる状況だ。私は仕事柄、企業の人材育成やキャリア支援のお手伝いをすることや、大学の教育活動の支援をすることが多いが、今ほど基礎力(もしくは基礎力に類するもの)に注目が集まっていると感じたことはない。
基礎力とは、一言で言えば、どのような仕事をするにしても必要となる能力のことで、職業能力の基盤となるものである。日本では比較的新しい考え方と言えるだろう。
「基礎力」という名称を打ち出したのは、私が2004年に上梓した『仕事のための12の基礎力』(日経BP社)がおそらく最初である。ここではキャリアの下地となる職業能力のなかから例示的に12個をピックアップしてその開発方法をまとめた。
その後に経済産業省が、学校と産業界を結ぶ体系的な能力概念として2006年に「社会人基礎力」を発表したことで一般に広く知られるようになった。社会人基礎力と聞くと学生のためのテーマだと思うかもしれないが、基礎力自体は生涯にわたって高めるべき中核的で発展的な職業能力である。
企業の人材育成の場でも、学校教育の場でも、基礎力という言葉を使っているかどうかにこだわらずに内容で判断すれば、若い人材の育成は基礎力教育にかなり特化してきている。
言葉では、リーダーシップやパートナーシップと呼んでみたり、コンピテンシー、社会人基礎力、キャリア教育と呼んでみたり、様々だが、要はどのような仕事をするにしても必要な能力=基礎力を育てようとしているのである。
それではなぜ、基礎力が着目されるのか?それにはいくつか理由がある。
経済社会の変化が年々加速している
インターネットなどの通信手段が発達して、本格的に知識社会が始まった。情報は瞬時に国境を越え、個人でも世界中から情報を集めることができるようになった。情報産業では、変化の激しい様子を「ドッグイヤー」と言うが、これからは毎年がドッグイヤーである。
このような絶えざる急速な変化に、私たちはどのように対応していけば良いのだろうか。ただ変化が通り過ぎることを願い、嵐が過ぎ去るのを待つように、体を固くしてじっとしていても何も解決はしない。
唯一の解決の方法は、変化をむしろ先取りしてつくるつもりで行動することであり、変化があることを積極的に楽しむことである。
「変化対応」「変化適応」という言葉がよく使われるが、技術もマーケットもビジネスモデルも刻々と変化する現在にあっては、基礎力がしっかりしているということは、状況が変化したとしても対応する力があるということを意味するのである。
これは世界共通のことで、そのために、教育の場でも基礎力の重要性が認識されてきているのだろう。変化のスピードが遅ければ、社会が求めるものを見越して教育をすれば良い。
しかし、これほどまでにスピードが速くなると、変化に左右されない力、変化を乗り越える力を育てることが重点課題になるのだ。日本では基礎力というが、国によって呼び方は違う。
アメリカではbasicskillsやcompetencies、イギリスではgenericskills、ドイツではkeyqualifications、フランスではtransferableskills、オーストラリアではkeycompetencies、カナダではemployabilityskillsなどと呼ばれることが多いようだ。
これは先進国が共通して大きな変化に直面しているということの証左だろう。