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高級食材だけがすべて? 現代に合った贅沢な「貧乏人のスパゲッティ」

樋口直哉(作家・料理家)

2022年02月17日 公開


贅沢な「貧乏人のスパゲッティ」

贅沢な料理とは? キャビア、トリュフ、フォアグラといった高価な食材を使うことももちろん贅沢ですが、旬の食材をたっぷりと使う、2人分で1腹のところを、1人分1腹使ってみる……そんな少しの工夫で、驚くほど贅沢な気分になります。

新刊『ぼくのおいしいは3でつくる 新しい献立の手引き』より、スペシャルなパスタのレシピをご紹介。パスタをブイヨンで茹でる、旬の食材を加える、卵をW使いする、シンプルだけど贅沢な料理です。

※本稿は樋口直哉著『ぼくのおいしいは3でつくる 新しい献立の手引き』(辰巳出版刊)より一部抜粋/編集したものです。

 

シンプルだけど、贅沢な料理

最近、「贅沢」の意味が変わってきたように思います。昔は外車を乗り回したり、リゾート地に足を運んだりするのが贅沢でしたが、今は普段の生活と切り離された静かな温泉旅館で、ゆっくりと過ごすことが憧れになりました。金銭的な豊かさよりも「時間」に満足感を見出す人が増えているのです。

そういう意味では「家でゆっくりと料理を楽しむ」というのは最高に贅沢な行為ではないでしょうか。ちょっといい食材を買い込んで、ゆっくりと料理する時間を楽しむ。料理は「焼き立て」や「煮え花」という言葉に代表されるように「出来立て」が一番おいしいのです。そして、それは自分でつくることでしか味わえません。

ゆっくり料理をして、その場にしかない瞬間のおいしさを味わう。おいしい料理が溢れている現代だからこその贅沢な気がします。

食材についても貴賤が減りつつあります。日本の高級店ではまだマグロや鯛、アワビやウニ、和牛といった高級食材を並べる傾向がありますが、食材を平等に扱い、むしろ捨てられるようなものに光を当てることで価値が生まれるのが世界の料理界のトレンドです。

考えてみれば、高級食材はお金を出せば集められます。人々はそれよりも手間と時間をかけて集められた本当の意味の「ご馳走」に気がついたのかもしれません。旬の食材をたっぷりと使って自分で料理するのは、キャビア、トリュフ、フォアグラといった高価な食材を使うよりも贅沢なこと。たらこスパゲッティをつくるとき、いつもは2人分で1腹使っていたところを、1人分で1腹に変えてみましよう。目玉焼きひとつとっても卵1個のところを2個使うだけで、贅沢な気分になります。

シンプルだけど、贅沢な料理。1つの野菜をじっくりと焼く、ひとつひとつの工程をきちんと踏まえていく。シンプルな料理こそ、そうして積み上げた時間が味に影響する世界なのです。

 

ブイヨンで茹でたパスタにW卵使い たっぷりの粉チーズに黒胡椒がアクセントになる

目玉焼きとチーズというありあわせの材料でつくる「貧乏人のスパゲッティ」。それを思い切り贅沢につくります。スパゲッティを茹でるときはたっぷりの湯で——とよく言いますが、ほどほどの水量で茹でても問題なく、くっついたりはしません。湯の量よりも重要なのは下味の塩で、今回はブイヨンをプラスして茹でます。1%塩分濃度の湯+ブイヨンキューブで茹でれば味つけする必要がなくなり、失敗の可能性がぐっと減るからです。

これが1つめの贅沢ポイント。2つめのポイントは2人前に卵を4つ使うこと。見た目にもリッチになります。さらに旬の野菜も加えましょう。一緒に茹でる野菜はアスパラガス以外にズッキーニやいんげん、キャベツなども合います。いつもおいしいものを食べていれば、心は貧しくなりません。

材料(2人分)
スパゲッティ(1.7mm)…180g
アスパラガス…1束
ブイヨンキューブ…1個
卵…4個
にんにく…1片
バター…20ℊ
粉チーズ(パルメジャーノチーズ)…30g
黒胡椒…適量
サラダ油…適宜

鍋に水1Lと塩10g(分量外)を入れ、火にかけます。沸騰したら弱火に落とし、ブイヨンを投入。スパゲッティを袋の表示時間を目安に茹で、茹で上がり1分前にアスパラガスの薄切りを加えます。

パスタを茹でているあいだに目玉焼きをつくります。フライパンにサラダ油を引き、卵4個を割り入れます。弱火でじっくりと加熱し、白身に火が通ったら2つは取り出しておきます。

フライパンに残ったソース用の目玉焼きは火を強めて裏返し、白身にうっすら焦げ目がつくまでしっかり火を通していきます。この焦げ目がおいしさのもとになります。黄身がやや半熟状になったらバターと潰したにんにくを加え、ふつふつ沸いて香りが立ってきたら木べらで卵を潰します。この卵のタンパク質が乳化剤になります。

フライパンに茹で上がったスパゲッティとアスパラガスを加えます。さらに茹で汁50mlと粉チーズを混ぜ合わせてソースを絡めたら、器に盛り付けます。目玉焼きをのせ、粉チーズ(分量外)、黒胡椒を振ります。物足りなければ目玉焼きに塩を振ってください。食べるときは卵を潰して、麺と混ぜながらどうぞ。

 

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