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生き方

伝説の無観客試合...巌流島で猪木とマサ斎藤を撮ったカメラマンが見た「切なさ」の正体

原悦生(カメラマン)

2022年04月26日 公開 2022年05月06日 更新

 

ロマンと切なさを凝縮した“2時間5分14秒”

それでも斎藤は立ち上がった。リング内でのバックドロップ。スプリングを抜いたというマットの下に敷かれた板が鈍い音を立てた。

猪木が斎藤を残してリングを降り、テントに戻ろうとしている。

「猪木、まだだあ」

斎藤が腹の底から絞り出したような声で猪木を呼び止めた。猪木がそれに反応して、ゆっくりとリングに引き返す。

戦いは、まだ終わっていなかった。もう2人が戦い始めて2時間が過ぎている。最後は猪木が草地で斎藤を捕らえて、スリーパーホールドで締め落とした。猪木はゆっくりと立ち上がると、戦場の仕切りのロープの外に出た。

2時間5分14秒。

立会人の山本小鉄が斎藤のTKO負けを宣告した。勝った猪木は額から血を流したまま、朦朧と島の草地をさまよっていた。

その後、猪木は我々より先に血だらけでタイツ姿のまま小さな渡し舟に乗り、島を離れた。猪木を下ろした船頭さんが同じ船で戻ってくる。何往復か目に、私の順番が来て船に乗り込んだ。

闇の中、潮の流れが恐ろしいくらい急になっていた。

猪木は巌流島決戦の2日前に離婚届を提出し、女優の倍賞美津子さんと別れていた。猪木の一時期の結婚式の挨拶に、「プロレスでは反則はカウント4まで許される」というものがある。

お互いの寛容と許容を訴えているわけだが、結婚に関して猪木は反則の5カウントを数えられてしまう宿命にあったのか。

この時期、何度も「離婚危機」と週刊誌に書かれたが、猪木自身は「俺たちには離婚話は無縁だ」と思っていたようだ。

だが、突然「別れましょう。あなたは、いつも自分のことしか考えていない」と言われてしまう。

その後、娘の寛子ちゃんをアメリカに訪ねて説明しようとしたが、話を切り出さなかったという。こういうことに猪木は弱い。

私はこの巌流島決戦に闘いのロマンと男の切なさ、その両方を見た。

 

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