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飛び込み営業がやめられない...コンサルタントが目撃した「DXに失敗する企業」

日淺光博(株式会社日淺CEO)

2022年04月30日 公開 2022年06月02日 更新

 

経営者がデジタルの重要性を理解しない

次に、経営者がブレーキになった事例をご紹介しましょう。

どの企業のどの部署もコロナ禍の影響を受けましたが、最も色濃く影響を受けた部署の1つが、昔ながらの飛び込み営業をしていた営業部です。私がDXを担当した、中小企業向けに技術顧問を派遣する人材会社はその典型例で、企業のオフィスがたくさん入っているビルを上から下までしらみつぶしに訪問し"足で稼ぐ"営業スタイルでした。

あるとき、その会社の営業部長から相談があり、

「そもそも営業に行こうと思ってもコロナの影響で飛び込みはNG。これを打破するために営業ツールを使って"脱・飛び込み営業"をしたいが、上層部が首を縦に振ってくれない」

とのことでした。

くわしく話を聞くと、経営者自身が"足で稼ぐ"スタイルで新規顧客を開拓してきたため「ITを導入する前に、メールを送るとか電話アポイントを強化するとか、やることはいくらでもある」と言い放ち、まったく取り合ってくれなかったそう。これは2020年末ごろの話ですが、当時はリモートワークもなく全社員出社が当たり前でした。

この依頼を受ける前に、私は経営者と面談の機会を頂きました。

その席で「営業体制のデジタル化は、ご検討頂けるのでしょうか」と聞いてみたところ、意外にも「成果が上がるならいい」との返事が。ここでの成果とは、新規開拓で顧客が増えることです。この経営者は当初、昔の自分と同じように"足で稼ぐ"努力さえ続ければ業績は戻ると考えていましたが、1年近く経っても戻る気配もない状況を鑑み、自分の成功体験にも限界があると感じていたようです。

その後、私に相談してくれた営業部長と一緒にDX計画を策定し、経営者の決裁を頂きDXプロジェクトを立ち上げました。すでにリモート商談や顧客管理のデジタル化などは導入済みですが、その影響で他の部署も、徐々にデジタル化の取り組みが始まっています。

 

経営者と社員の壁が発生する原因はどこにある?

そもそも経営者と社員の間に、なぜ壁ができてしまうのでしょうか。DXの理想的な姿は、経営者から現場まで全社で同じ方向を向いて成功へと進んで行くことです。しかし、そうならない原因は"DXは単なるデジタル化ではなく、会社の体質改善"という認識を、どちらかができていないことにあります。この認識の違いがDX推進を阻む大きな壁となるのです。

これは体型改善に置き換えると、わかりやすいかもしれません。

メタボ体型の人が筋肉質の逆三角形体型になろうと思ったら、筋トレなどで筋肉を刺激するようになり、食べるものも変化するでしょう。おそらく筋肉痛になりますし、それまで食べていた揚げ物やスイーツが制限され、より筋肉をつけるための食事に置き変わるはずです。

こうした"痛み"があるのに、なぜ筋トレをしなくてはいけないのか、なぜ食事制限をしなくてはいけないのか。これまでのやり方ではダメなのか。目的意識や信念、強い意志がある人とない人とで、取り組み方は大きく変わってくるはずです。

DXの推進は、この体型改善を進める過程に似ています。多くの企業は、いまの会社を取り巻く環境や将来への不安、働く環境の改善などを目的にDXを始めますが、危機感のある人と危機感のない人の意識の差は確実に生じます。1つ目の事例の経営者は強い危機感があり、社員にはそこまでの危機感はありませんでした。これがDX成功を阻む壁となるのです。

また、どこに危機感を抱いているかが違うケースもあるでしょう。2つ目の事例の経営者は、会社を取り巻く環境の変化への対応よりも営業部員の働き方を課題と感じ「予算をつけてDXを始める前にやることがあるだろう」と考え、現場の社員は営業の環境が激変しているので「メールや電話アポイントでどうこうできる段階にない」となったわけです。

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経営者と社員の壁を解消する方法

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