昨今、自社で「1on1ミーティング」が導入されたという人は多いだろう。うまく使えば上司にとって最強の武器になる一方、コツを知らなければ逆効果になることも...。
直接顔を合わせる機会が減ってしまったからこそ、第三者の視点で情報量を確保することが大事である。こう語るのは、らしさラボ代表の伊庭正康氏。
1on1ミーティングで、部下とのコミュニケーションを円滑にするコツを聞いた。
※本稿は、伊庭正康著「できるリーダーは、「これ」しかやらない[聞き方・話し方編]」(PHP研究所)の中から、一部を抜粋し、編集したものです。
7割の企業が導入する「1on1ミーティング」
コロナ禍以降、企業で「1on1ミーティング」の導入が一気に加速しています。
2020年の「人事白書」の調査では、導入している職場は約4割でした。それが、2022年のリクルートマネジメントソリューションズ社の調査によると、職場の制度として1on1ミーティングを導入している職場はなんと7割にまで上昇。
かくいう私も各企業で1on1ミーティングの研修を実施していますが、急激にニーズが増えていることを実感します。
その背景には、リモートワーク、時差出勤、フリーアドレス制を導入する企業が急増していることがあります。つまり、職場でのコミュニケーションが希薄になっていることが大きな課題になっているのです。
ただ、7割もの企業が導入しているわりには、正しく理解している人は少ない印象です。
そこで、まずは「1on1ミーティングとは何か」を解説しましょう。
1on1ミーティングとは、隔週あるいは月1回ほどの頻度で定期的に行われる1対1での対話のこと。面談時間1回あたり15分から30分程度で、じっくり話を聞くため、座って行います。
上司と部下との通常の面談においては、上司主導で状況の確認や指導を行いますが、1on1ミーティングではあくまで部下の気持ちに寄り添い、上司は「聞き役」に徹します。
周囲には言いにくい「職場で気になること」や、誰にも気軽に相談できない「今後のキャリア」のことなどを聞いていくのです。
その効果は大きく、「コミュニケーション不足の解消」「部下のコンディション把握」「本音で話せる関係づくり」など、多岐にわたります(リクルートマネジメントソリューションズ社の調査より)。
企業ごとにカラーもあり、たとえばパナソニックコネクティッドソリューションズ社では「内向き風土の改善」に向け、ヤフーでは一人ひとりの「才能と情熱を解き放つ」(人材の能力開発)ことを目的に、クックパッドでは、エンジニアがチーム志向になることを目的に1on1ミーティングを導入しているそうです。
実際、私の研修先でも多くの会社が導入していますが、総じて従業員満足度が高くなり、離職の予防にもつながっているとの声を耳にします。
しかし、その一方で問題視されているのが「1on1ミーティングの形骸化」です。「ただの雑談になる」「上司ばかりが話している」「話すことがなく沈黙してしまう」といったケースがしばしばあり、むしろ部下の満足度が下がってしまうのです。
でも、それはある意味仕方のないことではあります。多くの人が1on1ミーティングの真の目的やコツを知らず、ただ面談をすればいいと考えているからです。
コツさえわかれば、1on1ミーティングは上司にとって最強の武器になります。
「沈黙」や「一方的な話」がなくなる4ステップ
1on1ミーティングがうまくいかないケースのほとんどは、「上司が部下の話を聞き続けることができない」ことにあります。
ただ、これは無理からぬことでもあります。15分、30分にわたって人の話をひたすら聞くのは、そう簡単ではありません。しかも、ぶっつけ本番、つまり「アドリブ」で話を聞き続けるのは、とても無理です。
まず、知っておくべきは、1on1ミーティングには「基本の進行」(コード)がある、ということです。
誰もが知る名曲にはコード進行のセオリーがあると言われています。それを知っていれば誰でも美しい旋律を生み出せるとまでは言いませんが、そうした理論を知っているかどうかは大きな違いになるでしょう。
同様に、「基本の進行(コード)」を知らずに、スマートな1on1ミーティングはできません。コードがないから話があっちこっちに飛び、「雑談」になってしまうのです。
では、1on1ミーティングのコードとは何か。それが以下の4ステップです。
まず、最初のステップは「アイスブレイク」。そもそも、上司と2人きりになるという時点で、部下は緊張するもの。軽い雑談(質問)で、部下の緊張を取り除きます。
次はステップ2「心身のチェック」。心身の不調などがないかを教えてもらいます。デリケートな話題ですので、聞き方にはコツが必要ですが、このあとの項でスマートに確認する方法を解説します。
そして、ステップ3「褒める」。部下へのねぎらいの気持ちや、感謝を伝えます。なかなか伝える機会が少ないからこそ、この機会を使います。
そして、ステップ4「メイントピック」。曲で言えばサビ。特に重要なパートです。このパートが1on1ミーティングの全体の7~8割を占めます。
やることは、部下が気になっていることを上司が"ひたすら"聞くこと。「職場のこと」「業務のこと」「キャリアのこと」などについて、改まって言うほどではないものの、気になっていることを教えてもらいます。
そして、最後に「気づきはあったか?」「やるべきことは見えたか?」等を確認して対話を終えます。
これが「基本の進行」です。これを知っていれば、上司が一方的に話すこともなく、ひたすら沈黙が続くこともなくなるはずです。