「高額受注できそうか?」「顧客の要望に対してどう提案する?」。部下にこう問いかけ、スムーズに答えが返ってきたのに、結果が出ない…。このケース、上司にとっては頭痛の種だろう。
昨今のリモートワーク下で、指示待ちタイプの部下とのコミュニケーションがますます難しくなっている中、どんな言葉をかければ、部下が自主的に考えて行動し、結果を残すのだろうか。『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』(かんき出版)の著者・山下貴宏氏に教えてもらった。
「コーチング」をするべきか、「ティーチング」をするべきか
今、若手の置かれている状況は、じつに厳しいと感じます。リモート環境によって、以前のように気軽に上司や同僚とコンタクトがとれない。しかも、例えばDXの提案など、商談は複雑性を増し、顧客のニーズや環境の変化に応じて"売り物・売り方"を変えていかないといけない。
新人・若手営業職には、2つのハンディを負って成果を出すことが求められているのです。
そういった状況下で上司が把握しておきたいのは、部下に今必要なコミュニケーション手法は「ティーチング」なのか、「コーチング」なのか、です。ここを最初に見極める必要があります。
指示を出しても成果が出ない部下に対して、どういった観点での働きかけが必要なのか。部下に知識やスキルがなく、必要な情報や手順を上司から明確に伝えることが重要な場面で求められるのは、「ティーチング」です。
ある程度の知識や経験があるにもかかわらず成果が出ない部下には、営業のアプローチのしかたや引き出しを増やすため、自ら考えさせる「コーチング」が必要になります。
見極め方は、特定の場面で期待したアクションがとれなかった理由が、どこにあるのかです。頭ごなしに決めつけるのではなく、ハードルがどこにあるかを部下と一緒に確認するのが有効です。
その上で、「新しい製品の知識が不足していたかもしれません」とか、「お客様にとってのメリットの洗い出しが不十分でした」などと部下自身が気づければ、次のアクションにつなげられると思います。
コーチングが必要な部下に対しては、「顧客から見たら、今どういう状況なのか」「その提案を受けたとして、本当に稟議を進められるか」など、"顧客視点"をもって考えさせ、問いかけることが重要です。
以下は、営業マンの「あるある」ともいえる商談のケースです。実際に、上司からのどんな問いかけが有効かを見ていきましょう。
ケース1「今月の重要商談が受注できそうか」を確認したい時
上司が最も注視するケースではないでしょうか。
ここで、「この商談は受注できそうか?」「あの案件、今月いける?」などと聞くことには、あまり意味がありません。"自社視点"で聞いてしまっているので、部下も「いけそうです」「厳しいです」と、YES・NOで答えるだけになってしまうでしょう。
大事なのは"顧客視点"です。例えば、「顧客=意思決定者が今月発注したいとのことだけど、その理由は何かな?」と、問いかけるのです。その理由をつかめれば、受注の度合いも明確になり、意思決定を促すにあたってどんな行動をとればいいか、部下の思考も広がるはず。これが"顧客視点"で働きかける最大のメリットです。
仮に、顧客から「発注は来月に見送りたい」と言われたら、どうするか?
「わかった」で終わらせず、「お客様の意思決定はどういう状況か?」「お客様の意思決定のポイントはどこ?」と問いましょう。顧客の課題がわかれば、部下もやるべきベクトルがハッキリするでしょう。この視点がないと、「今月中に注文書をもらうようプッシュしに行け」などと、効果的でない指示になってしまいます。
具体的な意思決定者は誰か、顧客のネックは何かなどを押さえられれば、受注確度が高まります。