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相手の信頼を損ねてしまったときに「関係を修復する」ための質問

徳吉陽河(一般社団法人コーチング心理学協会代表理事・講師)

2025年03月31日 公開

相手の信頼を損ねてしまったときに「関係を修復する」ための質問

相手との信頼関係を築くには「質問」をすることが重要です。相手が回答しやすい質問を投げかけることで、人間関係が深まったり、信頼を損ねてしまったときにも関係を修復することができるケースもあります。本稿では、書籍『結果を出す人はどんな質問をしているのか?』より"信頼関係を育む質問"について解説します。

※本稿は、徳吉陽河著『結果を出す人はどんな質問をしているのか?』(総合法令出版)の一部を再編集したものです

 

相手の感情を受け止めて「共感」する

会話をうまく促すためには相手の言葉に対して、しっかりと聞くことが重要です。

話し手の気持ちや考えを深く理解し、信頼関係を築くための傾聴。その傾聴には「アクティブ・リスニング」という手法があります。

単に相手の話に耳を傾けるだけではなく、アイコンタクトやあいづち、うなずきなどのリアクションを取ると同時に相手の状況を観察し、相手の動作から「意図」を読み取っていきます。

これは相手に気持ちよく話をしてもらうという意味でも必要なスキルです。特に人との最初の関係づくりにおいて、「ちゃんと聞いてくれる人」だと認識されると、相手に覚えてもらいやすくなります。他には、「ポジティブ・リスニング」という方法もあります。

「楽しかったのですね」
「面白かったのですね」
「そのことが良かったのですね」

このように相手のポジティブな会話を促進して、ポジティブなリアクションで、傾聴を行う方法です。ポジティブ・リスニングを行うことで、ポジティブ感情を高め、前頭葉を活性化し、問題解決への思考を高めるように会話を促していきます。

さらに、相手の感情や言葉を受け止めて共感しながら、相手のペースに合わせて対応する方法として、「ミラーリング」という手法もあります。

相手と同じ言葉で返事をしたり、相手が好きな言葉、大切にしている言葉で返答したりします。好きな言葉や大切にしている言葉は直接的に相手の信念やその人らしさに関わり、どのような価値観をもっているかがわかります。

たとえば、私の好きな言葉は、「我以外皆師也(自分以外は皆先生である)」、「成長」などです。「成長」は、私の研究や人生のテーマの一つにもなっています。このように相手の大切な言葉には、その人の強みや自分軸が表れている場合が多いのです。

「あなたの好きな言葉は何ですか?」
「あなたが大切にしている言葉は何ですか?」

このように質問を行い、相手の大切な言葉を拾い取りましょう。そして、相手の人生の目的やテーマを読み取り、相手の感情を受け止めて「共感」することで、良好な関係が築きやすくなります。

 

質問は信頼関係を育み、復活させる

職場で上司、部下の人と関係を深めたいときにも質問は有効です。ここでは、認知行動コーチングでいう「ABC法」を前向きな視点で応用する方法を紹介します。

A(Activating event)は出来事です。ここでの出来事は、信頼関係を構築する機会とします。信頼関係を構築する機会から、何ができるか考える段階です。具体的には、「信頼関係において何を大切にするか?」ということです。

B(Belief)は信念であり、出来事に対する相手の価値観や考え方を理解します。また、相手の信念に触れることにより、自分自身の価値観について考えるきっかけにもなります。ここではポジティブな「B」を確認します。

たとえば、信頼関係において相手が「時間を大切にしている。だから遅れる人は嫌い」という価値観をもっていたとします。するとその人とは自然に、時間に注意した関係性を構築しようとするはずです。そして、相手と比べると自分は「時間」に関して、大きなこだわりをもっていない、と知ることもできます。

このように質問力があれば相手が人付き合いで重要視しているポイントを理解していくことができるのです。

さらに、「なぜ時間を大切にされているのですか?」などと質問を重ねると、より相手の本質を理解することができます。

この段階で注意すべき点は、相手の信念や価値観を無条件に肯定的に受け止めることです。相手との信頼関係を構築するために、不用意に相手の大切な信念を否定してはいけません。特にここでは、相手の信念を把握することが大切です。

C(Consequence)は結果です。信頼関係を築き前向きな結果に導けるように検討していきます。ここでは、最終的にどのような信頼関係を構築していくのが望ましいかと考えます。

併せて「もし信頼関係を壊してしまう出来事が起こった場合、どう対処するのか?」も検討します。あらかじめ、転ばぬ先の杖として、うまくいかないケースも頭に入れておいて、信頼関係が壊れないように配慮するのも大切です。どのような信頼関係が望ましいのか、相手に考えてもらい、その解決策を提示してもらうのも良いでしょう。

どんな瞬間でも一期一会を感じながら考えて、できるだけ良い結果につながるように相手を尊重しながらコミュニケーションを図っていきましょう。

もしかしたら意図せず、相手の信頼を損ねてしまうことがあるかもしれません。その際にこの「ABC法」を活用すれば、より前向きに行動することができます。信頼関係が崩れた際に、いったん距離を置くという人も多いですが、それでは解決に向かわないことのほうが多いと私は経験上いえます。

たとえば私と友人の話ですが、親友にハッキリと批判的な言葉を言ってしまい、しばらく距離を置かれたことがあります。それからも定期的に、「最近どうしてる?」や「元気?」といった質問をメールで送っていました。しばらくは無視されましたが、あるときそれがきっかけで返事を返してくれたのです。

このように相手が回答しやすい質問を投げかけていくと、つながりを切られても、また戻りやすくなります。

そのため、相手に「もし信頼関係を壊してしまう出来事が起こった場合、どう対処するのか?」の答えを聞いておくと、より効果的な行動ができるのです。

人間同士は、一度関係性が切れたとしても、どこかでまたつながることがあります。昔嫌いだった人と大人になって出会ったら、仲良くなった話などよく聞きます。就職活動で断られた会社に、巡り巡って入社できたという話も聞いたことがあります。

営業職の人はイメージしやすいかもしれませんが、営業先で断られても「また機会があったらお声がけさせてください」と伝えて、次の仕事のきっかけをつくることができる人は、そのあと、相手とつながるチャンスが増えます。

相手とつながる糸口を残しておけば、どこかで関係を再構築や修復できる可能性が高まります。そのような再構築・修復のチャンスをもつためにも、感情的になったりせず、リカバリーの方法を知っておくことが重要なのです。

 

著者紹介

徳吉陽河(とくよし・ようが)

一般社団法人コーチング心理学協会代表理事・講師

一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会代表理事・講師
専門分野はコーチング心理学、ポジティブ心理学、キャリア心理学、認知科学など。資格は、コーチング心理士、公認心理師、キャリアコンサルタント、ポジティブ心理療法士、認定心理士(心理調査)など多数。クライアントやコーチ・カウンセラーがお互いに前向きになるようなウェルビーイングや能力の向上、自己成長の支援を行っている。海外の心理尺度の翻訳、実用的な心理テストや性格診断の開発をし、WEBサイト『ペルラボ』にて、心理学とデータ解析に基づいた心理尺度、ストレス研究などを行う。

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