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多かれ少なかれ、どんなビジネスパーソンもストレスを抱えているもの。一流のビジネスパーソンはそんなストレスとどう向き合い、どのようなメンタルケアをしているのでしょうか。多くのハイパフォーマーを見てきた人材開発コンサルタントの佐藤美和さんに聞きました。
※本稿は、佐藤美和『世界のハイパフォーマーを30年間見てきてわかった一流が大切にしている仕事の基本』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
給与の5%は「忍耐手当」
「そもそも給与というものには忍耐手当が含まれていると、私は思っているんです」
責任ある仕事を任されてプレッシャーも相当なものだろうに、いつも沈着冷静、そして笑顔を絶やさない、メンタルタフネスな、ある卸売企業に勤める方の発言です。
その方はさらにこう続けました。
「私だって『もう仕事なんて嫌だ』『こんな会社辞めてやる!』と思うことは当然ありますよ。でも、どこでどんな仕事をしていたとしても、もっと言えば、生きている以上、嫌なことや思い通りにならないことは必ずあるでしょう。それも含めての給与だと思っているんです。
給与の一部は我慢への対価だと思っているから、そのお金でときどき自分を思いっきり甘やかしています。『いろいろ我慢したもんね』というのを口実にして、前からほしかったものを買うとか、美味しいものを食べるとかをします。ちょっと金欠のときには、コーヒーのサイズアップなんてこともありますけどね。『次のご褒美はあれにしよう!』と、自分で自分を鼓舞して、これまでなんとかやってきました」
この話を聞いて、私は、なるほど! 「ビーパー・ペイと同じ発想だ」と思いました。
ビーパー(beeper)は英語でポケベルのこと、ペイ(pay)は手当の意味です。
誰でもスマホを持っている今の時代では知らない人も多いかもしれませんが、ポケベルはポケットに入る程度の無線受信機で、連絡をとりたい人が電話をかけると音が鳴ります。ディスプレイに数字やカタカナで15字くらいのメッセージを表示させることができる機種もありました。
ちなみに、スマホはメッセージの受信も送信もできますが、ポケベルは受信だけで送信はできません。なんとも不便な時代でした。
その頃は、保守の仕事をしている人などに、いつでも連絡をとれるようにと、会社がポケベルを貸与していました。いつ出動要請があるかわからない仕事には、精神的な負担が常につきまといます。それに報いるための手当がビーパー・ペイです。
ポケベルは数年前にサービスが終了しましたが、今でも緊急呼び出しに対応する職種の人への手当は、ビーパー・ペイと呼ばれています。
なお、企業が支給する手当には、残業手当のように法律で決められているものと、住宅手当のように企業が独自に定めているものがあります。
企業独自の手当には、自転車通勤手当や服飾手当のようなユニークなものもあります。これらの手当には、健康促進のために自転車通勤を奨励する、社会人として身だしなみに気をつかってほしいという、企業から社員へのメッセージが込められています。
日々の仕事を顧みると、少しのアイドリングタイムはないでしょうか?
気分転換のためにコーヒーを淹れる、ちょっと外に出て深呼吸する、気になってしかたがないスポーツの試合の結果をチェックする、こんな時間は毎日何かしらあるものです。
アイドリングタイムが、平均で1時間中に3分だったら、働く時間の5%にあたります。
5%を金額に換算すると、月給30万円として1.5万円、時給1004円(2023年度の全国最低賃金の加重平均)のうちの50円です。
この5%を忍耐手当と考えるのです。
忍耐手当に込められたメッセージは、「我慢することでコチコチになった心をときどきほぐしてください」というところでしょうか。
総じて一流は「仕事に我慢はつきもの」「思い通りにならないのが会社というもの」といい意味で達観しています。だから、忍耐手当という発想が出てくるのでしょう。
さらに、一流は皆、息抜き上手です。小さなご褒美を励みに走り続けています。そして「もう限界だ」と思う前に休みます。これが一流で居続けられる理由です。
一流にならって「忍耐手当をもらっているから」と割り切ると、つらさもちょっと軽減できるような気がします。そして、忍耐手当を使って、「よくやった」と自分で自分を褒めてあげてください。
年収と同額の貯金をする
「年収と同額の貯金を常にキープしているんです」
ある方がこう言っていました。
きっかけは、社長室への異動だそうです。
その方は、「社長室の役割は、経営者に対して耳の痛いことを言うことだ」という信念を持っています。でも、この信念を貫くのはとても勇気のいることです。「経営者の逆鱗(げきりん)に触れて、会社に居づらくなるかもしれない、この会社を辞めたら明日からどうやって生活していくのだろう」と思うと、自然とブレーキがかかってしまうからです。
だから、いつ退職することになっても、路頭に迷う心配をしなくていいように準備をしているそうです。1年あれば満足のできる仕事を見つける自信はあるので、年収分のお金をキープしています。そうすることで生活のことを気にせずに、思った通りに働けると言うのです。本人曰く、「『お守り』のようなもの」だそうです。
どんな仕事をしているのかにかかわらず、働く人なら誰でも、突然会社を辞めることになったらどうしようと、心のどこかに不安を抱えているものです。老舗企業への就職を目指す人が多いのも、婚活市場で公務員や大手企業の会社員が人気なのも、こんな不安を少しでも取り除きたいからではないでしょうか?
しかし、ビジネスモデルがどんどん変化していく昨今、どんな企業でもいつ消滅するかわかりません。加えて、人生100年時代になって、働く年数が長くなっています。公務員でも、伝統ある大手優良企業に勤めていても、どんな人でも失業の心配がないとはもはや言えません。
こんな背景から、資格取得を目指す人も増えています。でも、残念なことに、資格を持っていても、路頭に迷う心配はないとは言い切れないのです。
2008年9月15日に起きた米投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻から世界的な不況に発展した、いわゆるリーマンショックのとき、多くの金融機関に勤める人たちが失職してしまいました。
ちょうどその頃、私は企業の人事部で働いていたので、転職先を探す彼ら・彼女らの応募書類をたくさん見ました。皆、MBAや証券アナリストなどの難関資格を持ち、長年トップクラスの金融機関で仕事をしてきた人たちです。
それにもかかわらず、ほとんどの人は、長い間路頭に迷うことになってしまいました。仕事を求める優秀な人が市場にあふれているのに、金融機関は軒並み業績低迷でキャリア採用はしないという、供給過多の状態だったからです。
「そんなときこそ、資格を活かして独立したらいいじゃない?」と言う人がいます。
しかし、資格の価値は、その資格が必要な仕事の量(需要)と資格を持っている人(供給)のバランスで決まります。資格があっても需要がなければ話にならないし、需要があってもその資格の保有者が増えれば仕事の獲得競争は激しくなります。
だから、独立して成功している人はほんの一握りです。
その一握りの人たちも、仕事が軌道に乗るまでには何年もかかっています。資格を持っていても、十分な実務経験を積んでいなければ、自分でビジネスを回してはいけないし、顧客開拓は一朝一夕にはできないからです。
こう考えると、どんな人であれ、年収と同額の貯金があれば、たとえ何が起きても1年間はこれまでと同じ生活をすることができます。人におもねることなく、信念に従って行動することもできます。
これは、心の平穏につながります。
給与の10%をコツコツ積み立てていけば10年、または夏と冬の賞与をまるまる貯金に回せば3〜4年で、年収と同額のお金が貯まります。
「お守り」貯金で、心穏やかに毎日を過ごしましょう?
心が折れそうな話は副音声解説で聞く
尊敬を込めて「鋼(はがね)のメンタル」と呼ばれている一流の方がいます。どれだけ忙しくても自分を失わず、面と向かって批判や非難をされてもこたえている様子はありません。何が起きてもペースを崩さずに、着々と前に進んで成果を出し続けるのです。
どうしてこんなに強くいられるのか? その答えは「副音声切り替え」にあります。
その人だって、心が本当に鋼でできているわけではありません。さすがに自分についてネガティブなことを言われるときは、心穏やかではいられず、心臓はバクバクすると言います。
だから、「これはさすがにキツそう」という予感がしたら、脳内で「副音声」に切り替えるそうです。
副音声は、オーディオコメンタリーと呼ばれる、映画やドラマで監督や俳優が場面解説や製作当時のエピソードを語るものや、スポーツの試合を元選手が解説するものをイメージしてください。あの要領で、第三者になったつもりで、脳内で今の状況を解説するのです。
「いつも穏やかな上司が険しい顔をしています。今月の数字が目標に届かないことを言いたいのでしょう。といっても、数字が上がらないのは私のせいだけではありません。値上げした翌月はそりゃ売れませんよ。でも、それは誰でも同じ条件だから、反論はできません。あっ、本題がはじまります。上司もちょっと言いにくそうです。厳しい言葉が続きますが上司の言うことにも一理あります......」という感じです。
こうすることで、心が折れそうな自分を、もう1人の自分が見つめている構図が出来上がるので、状況を客観的にとらえることができます。
室町時代に活躍した能楽師、世阿弥の言葉に「離見(りけん)の見(けん)」というものがあります。自分を観客の目で見なさい、つまり、第三の視点で自分を見ることが大切だという意味です。
心理学では、これを「メタ認知」と言います。
「メタ」は、「高次元の」という意味です。つまり、高い位置から自分を客観的に見ることです。
脳内で副音声に切り替えるのは、自分の思考や行動そのものを客観的な対象として把握し認識すること。離見の見、メタ認知です。
メタ認知は、自分のクセを見つけてくれます。
「自分の弱点だと思っていることを人から指摘されると、つい反論しちゃうな」
「自信のないところにくると説明を端折っちゃうから、余計に突っ込まれちゃうな」
このように失敗した原因がわかると、「反論したくなったら深呼吸しよう」「自信のないところほど念入りに準備して、ちゃんと話せるように練習しておこう」というように、どうすれば成長できるかわかってきます。
また、メタ認知はストレスも減らしてくれます。
ストレスを与えるのは出来事そのものではなく、その出来事のとらえ方です。ネガティブに考えると、それがストレスにつながります。
例えば、上司からの質問にうまく答えられずに困っている同僚を見かねて、代わりに答えてあげたとしましょう。助けてあげたのに、その同僚はお礼も言ってくれません。「礼儀を知らない奴だ」「もしかして余計なことをして嫌われたのだろうか」と考えると、ネガティブな気持ちになります。
しかし、俯瞰的に見ると「答えられなかったことが恥ずかしいのかな」「超急ぎの仕事があるのかもしれない」という別の解釈もできます。これなら同僚の態度も気にはなりません。
一流は皆メタ認知が上手です。だから、フィードバックを受けるとき、他人の態度がちょっと気にかかるとき、ストレスから自分を守りながらも成長のヒントはしっかり受け止められます。この積み重ねで、心を強く保ちながら仕事をしていられるのです。
【佐藤美和(さとうみわ) 】
株式会社ビービーエル 代表取締役。人事戦略・組織開発・人材開発コンサルタント/企業研修講師 。
一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。2023年度 Asia Business Outlook誌が選ぶ「アジアの組織開発コンサルタント トップ10」(Top10 Organization Development Consultants in Asia)に日本から唯一選出。
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル にて、アジア太平洋地域オペレーションセンター設立プロジェクトを担当。アーサーアンダーセン ヒューマン・キャピタル・サービス、IBMビジネスコンサルティングサービス(現 日本IBM)戦略コンサルティング部門にて、人事戦略策定、人事制度改革、組織開発、人材開発、チェンジマネジメント等のコンサルティングに従事。日本GEにて、人事本部 組織・人材開発責任者として、組織活性化、タレントマネジメント、グローバルタレント育成等に従事。
現在は、株式会社ビービーエルを起業し、日本を代表する企業や大手外資系企業を顧客に持つ組織・人事コンサルタントとして活動している。