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残念な上司がやりがちな「部下の本心を引き出せない」聞き方

伊庭正康(らしさラボ代表)

2022年10月21日 公開

残念な上司がやりがちな「部下の本心を引き出せない」聞き方

ドラマでよく見る「刑事の取り調べ」。あなたと部下との会話も、いつの間にかそんなふうになっていないだろうか。

らしさラボ代表の伊庭正康氏は、ポイントは「訊く」と「聴く」をセットにすること。そして、相手の「ココロ(考えや想い)」を聞き出すのが重要だと解説する。

部下との会話がスムーズになり、良好な関係を築くためのコツを聞いた。

※本稿は、伊庭正康著「できるリーダーは、「これ」しかやらない[聞き方・話し方編]」(PHP研究所)の中から、一部を抜粋し、編集したものです。

 

未来のリーダーの仕事は「聞くこと」

最初は「聞く」つもりだったのに、いつの間にか自分がしゃべっている。かといって黙ると、会話が続かない。「聞く」のは意外と難しい......。部下と面談をしていて、こんなことはないでしょうか。

「つい気がつけば、自分が話してしまっている......」
「次の質問が思い浮かばず、会話が続かない......」

だとしたら、今こそ"克服しておきたい弱点"と認識しておきましょう。マネジメントの大家、ドラッカーはこのようなことを言っています。

・過去のリーダーの仕事は「命じること」だが、未来のリーダーの仕事は「聞くこと」が重要になる。
・コミュニケーションで最も大切なことは、"相手の言わない本音"の部分を聞くことである。

ドラッカーに言われずとも、「聞くこと」の重要性は理解している、と言いたいところですが、もう少しこの「聞くこと」の真意を考えてみましょう。

言われたことしかしない「消極的な部下」がいたとします。「主体的になってほしい」と命じたところで、そう簡単になれるはずはありません。そこで、しつこいくらいに「聞くこと」が必要となります。

上司「〇〇さんには、新人の面倒を見てほしい。どうかな?」
部下「あ、はい......わかりました」
上司「ありがとう。もし、あれば教えてほしいんだけど、面倒を見るに当たって、気になることはある?」
部下「......えっと......いえ、特に大丈夫です......」
上司「安心した。新人と距離が近い〇〇さんだからこそ、教えてもらっていい?面倒を見るに当たって、うまくいかなくなる要素があれば確認しておきたいのだけど、どんなことが想定されそう?」
部下「そうですね......。私自身が忙しく、時間を取ってあげられるかが不安です」
上司「そうか......。どうしてなの?」
部下「仕事が増えて、自分のことでも手がいっぱいになっているんです」
上司「そうか......。手がいっぱいなんだ......。ところで、その忙しさを解消できれば、面倒を見ることへの不安はなくなる?」
部下「なんとも言えないです」
上司「そうなんだ。それは、どうして?」
部下「......」
上司「..................(沈黙).....................」
部下「教える自信がないのです......」

危ないところでした。「面倒を見てほしい」と指示しただけでは、うまくいかないリスクもあったでしょうし、さらには部下のメンタルダウンのリスクにもなってしまうことが、容易に想像できます。

何より、部下はまったく納得していませんでした。その想いを、質問を繰り返し、時に待つことで、徐々に引き出していくのです。

状況によっては、聞き出すのに30分ほどかかることもあります。しかし、この会話から、聞くことの重要性を確認できたのではないでしょうか。とはいえ、このような会話ができる人は、1~2割程度。ほとんどの人はこんな感じです。

「面倒を見てほしい」「......わかりました」「忙しいと思うけど、頼むね!」もはや、この状況はリスクでしかありません。

つまり、聞き役に回れるスキルは、もはや上司にとって不可欠なのです。でも、聞き続けるのは、意外と難しいもの。そこで、部下の話を「聞き続ける」テクニックを紹介していきます。

 

「刑事の取り調べ症候群」のワナ

管理職研修で、毎回のようにいただく質問があります。

「気がつけば、部下を質問攻めにしてしまうことがある。対処法は?」

確かに、聞き役に徹するほどに、尋問のようになってしまうことは少なくないものです。私は、これを「刑事の取り調べ症候群」と呼んでいます。

この問題は、「訊く」と「聴く」をセットにして質問すれば、今すぐ解消できます。

私たちは、「人の話を聞く」という言葉を何気なく使っており、本書も便宜上、「聞く」に表記を統一していますが、実はこの「聞く(きく)」には「聞く」「聴く」「訊く」の3種類があることをご存じでしょうか。

・聞く(Hear)...自然に耳に入ってくる声や音を感じ取ること
・聴く(Listen)...相手が何を思っているのか、耳を傾けること(ココロを聴く)
・訊く(Ask)...尋ねること(知りたいことを尋ねる)※尋ねる=訊ねる

「訊く」と「聴く」をセットにして質問するとは、「こちらの聞きたいこと(訊く)」だけではなく、「相手が話したいこと(聴く)」もセットで聞くということ。「刑事の取り調べ症候群」になってしまうのは、「訊く」しかしていない時なのです。

「一緒にいて心地よい人」になれるセオリーでは、ケースを見てみましょう。最初に「訊く」だけの会話です。

上司「週末は何をしているの?」
部下「サッカーです」
上司「へー。どこでやっているの?」
部下「〇〇公園です」
上司「誰とやっているの?」
部下「学生時代の仲間です」
上司「みんな経験者?」
部下「いろいろです」
上司「比率は?」
部下「比率ですか......経験者が9割です」

これが「刑事の取り調べ症候群」。部下はプレッシャーでしかありません。今度は、「訊く」と「聴く」をワンセットにしてみましょう。

上司「週末は何をしているの?」
部下「サッカーです」
上司「そうなんだ。どこでやっているの?」
部下「〇〇公園です」
上司「聞いてもいい?どんなメンバー?」
部下「学生時代の仲間です」
上司「めちゃくちゃ楽しそうだね。どんな感じでやっているの?」
部下「実は、大会で優勝を目指しているんです。去年は3位だったんですよね」
上司「すごい!今年はどうなの?」
部下「いや、今年は練習不足で......」
上司「そうか~」

訊くだけではなく、傍線部のように「どんな感じ?」「今年はどうなの?」と聴いたことで、部下が"自分が話したいこと(ココロ)"を話してくれたことがわかります。

この「訊く」と「聴く」は、すべての会話のベースとなる考え方ですので、部下との会話だけではなく、お客様、上司、同僚、家族、友人、すべてに使いたいセオリーです。

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