今や生活に欠かせない存在となったスマホやタブレット。しかし、これらを頻繁に使う子どもほど学力が低く、脳の発達に遅れが見られるという調査結果が報告されています。
一方で、「読書」や「音読」こそが脳を活性化すると東北大学教授の川島隆太さんは語ります。さらに、その効果は子どもに限らず、認知症の改善や創造性の向上など、年齢を問わず期待できるというのです。本稿では、読書が脳に良い理由について書籍『本を読むだけで脳は若返る』より解説します。
※本稿は、川島隆太著『本を読むだけで脳は若返る』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
脳のマッピング研究
家庭や教育現場では、昔から子どもたちの読書活動が奨励されてきました。これは、おそらく長く子どもたちを教育する中で、読書にいそしんだ子どもは才能を開花しやすいということを経験的に知ったからなのでしょう。特に、学校の先生など、教育実践に携わる方たちはこのことを直感的にわかっていると思います。
では、実際に読書をしているとき、私たちの脳はどのように働いているのでしょうか。私たちの東北大学加齢医学研究所では、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)装置などの計測機器を使って、脳の活動量を測るという実験を30年ほど前から行っています。その中で読書にかかわる実験も数多くしています。
このMRIという装置は、簡単に言うと脳の血流量を調べることができるものです。脳の中で活発に動いているところは多くの酸素や栄養を必要とするので、血液の流れる量が多くなります。その血液の流量を計測することで、脳のどこが活性化しているかを捉えることができるというわけです。
また、私たちの研究所で行っている研究は「脳のマッピング研究」と呼ばれるものです。さまざまな「こころ」の活動が、脳のどこで行われているかを、さまざまな機器で計測しながら活動の位置を特定し、脳の機能の秘密に迫っています。
本を読むだけで脳全体が活性化する

さて、私たちは次のような読書にかかわる実験をしました。
20〜30人の方々にMRI装置に入ってもらい、まず同じように新聞記事を読んでもらいました。黙読です。そして、一人ひとりの脳の状態を計測しました。このような実験では、比較対象も必要です。そこで、被験者の方にお願いして、一点をじっと見つめて何も考えないようにしてもらいました。こうすることで、思考の活動をあまりしていないときと新聞記事を読んだときの差がわかり、どこが活性化したのかを捉えることができます。
データの分析には統計学を用います。同じことをしてもらった被験者たちの7〜8割が共通して脳のどこを使ったかをコンピューターに計算させることで、より確実に使っていた場所を特定していきます。
こうして出した計測実験の結果が上の図1─1です。まず、この図の見方なのですが、わかりやすく言うと、1つの脳を魚の開きのようにパッと開いた形になっていると思ってください。1つの脳の右側と左側をそれぞれの横から眺めたもので、向かって左側は脳を左側から見ていて、右側は脳を右側から見ています。
囲われているところが、黙読で確実に使っていると示された場所です。曖昧な場所には囲みをつけていません。このように表示すると、脳のどの場所にどのような機能があるかが見えてきます。このようにして脳を調べるのが、私たちが用いている主な研究手法です。
この図を見ると、よく活動している場所があるのがわかります。脳の前(額側)の横にあるところです。ここが左半球も右半球もよく働いています。ここは「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」と呼ばれるところで、「思考の脳」と言われることもあります。ものを考えているとき、何かを学んでいるとき、創造をしようとしているとき、この「思考の脳」が働くことが脳科学の分野では知られています。
脳の後ろ(背中側)にも、いくつか働いている場所があります。目立つのは脳の後ろ側から下に回り込んでいくように見える場所です。少し専門的に言うと、後頭葉から側頭葉の下弦にかけての領域になります。後頭葉は主に視覚情報が扱われる領域で、側頭葉の下弦は語彙を含めたさまざまな記憶が格納されている領域であることがわかっています。
ときどき、「言語は左の脳だけを使う」と言う方がいるのですが、それは明らかな間違いで、そのことはこの図を見ると一目でわかるのではないでしょうか。私たちが読書をしているとき、左右の脳は確実に働いています。中でも、前頭前野(背外側前頭前野)後ろの下のほうにある言語を扱う領域が左右とも働きます。さらに、視覚の領域や聴覚の領域にも反応が出ます。つまり、活字を読むと脳が全体的に活動するのです。
この実験結果や類似の実験結果から一つの結論として言えるのは、読書は脳の全身運動になる、ということです。このことを理解するだけでも、読書活動にいそしむ子どもがさまざまな力を伸ばしやすいということが納得できないでしょうか。この「読書=脳の全身運動」は、大人についても同じことが言えます。
毎日、全身運動している人は、子どもも大人も健康的な身体を維持し、必要な筋力があれば、すぐに鍛え上げることができるものです。野球やサッカー、テニス、バレーボール、ラグビー、陸上などのスポーツをやろうと思ったときも、普段から運動している人のほうがすぐに上手にできるようになるでしょう。
それと同じように、毎日のように脳の全身運動をしている人は、そうでない人と比べて、さまざまな能力が発現しやすい状態になっているのです。脳も他の体の臓器や器官と同じであり、毎日の読書が脳の基礎力を上げてくれるのは、ごく自然なことだと言えます。
ここで少し補足説明をします。右利きの9割の人は、言語を扱う領域が主に大脳の左半球の前後にあります。もちろん右半球も働きます。左右のバランスで見れば、左半球のほうがたくさん使われる性質があるということです。残りの1割の人は、脳の両側が均等に使われます。また、左利きの人は、約半数の人が右側を主に、残りの半数の人が両側を使うことが知られています。
ちなみに、脳科学の研究者が脳の働きを調べる実験をするときは、たいてい右利きの人だけを対象にします。脳の使い方における左右のバランスが9割の人で同じになり、統計処理したときにノイズが少なくなるのです。多くの世の中にある脳科学のデータも、右利きの人のデータが主流になっていると理解しておくと良いと思います。








