ハラスメントは人間関係の中から生じ、誰もが被害者にも加害者にもなり得る、と社会保険労務士の村井真子さんは語ります。中には、過去に被害を受けた経験を持つ人が、のちに加害者へと立場を変えてしまうケースも存在します。本稿では、被害者をさらに追い詰める「セカンドハラスメント」の実態について、書籍『職場問題ハラスメントのトリセツ』より解説します。
※本稿は、村井真子著『職場問題ハラスメントのトリセツ ~窮地の前に自分を守る、取るべきアクションと相談のポイント』(アルク)より内容を一部抜粋・編集したものです
過去に自分が被害者となった経験がある人
自分が弱者の立場でハラスメント被害を受けた経験がある人は、自分が強者の立場に立ったときに「自分も耐えてきたのだから」とハラスメント行為を行うことがあります。
特に、社会変化によってハラスメントとされる基準が変わったことを受け入れられなかったり、自分がハラスメント被害を受けていた過去の基準でものごとを見ようとすると、相手との間に判断の乖離が生まれます。その乖離がハラスメント加害につながりやすいのです。
また、こうした特徴があるために、ハラスメント被害を相談されても事実を軽視し、被害者の傷を広げる恐れもあります。
[典型的な行動例]
▼「昔はその程度は当たり前だった」「これぐらいは普通」と過去を引き合いに出す。
▼ 権力ある立場につくと過度に威圧的になり、上下関係を強く意識させる言動をとる。
セクハラ被害を訴えてきた人に、セカンドハラスメントをする上司
[相談]
男性の上司から、ときどきボディタッチを受けています。肩を叩いたり髪の毛にゴミが付いているといって触れてきたときは、自分も自意識過剰かと思いましたが、最近は通りがけにお尻をなでたり、私の胸ポケットからボールペンを取ったり、「おっぱい大きいよね」「彼氏に満足させてもらってるの」「一回だけエッチしよう」など露骨な発言も出てきました。職場のスタッフはこの状況を見ていますが無関心です。
男性が多い職場だからなのかと、他課の女性課長に相談しました。すると課長は「その程度のことはよくあることで、いちいち騒いではいけない」と言って私をたしなめてきました。また、「私もそういうことはあったけど、上司にかわいがられると昇進も早いから、割りきって受け入れたほうが得だよ」とも言われました。もうこの会社は辞めようと思います。 カスミ(20代・女性)
カスミさんは中堅製造業の管理部門で働いていて、そこで男性の上司である課長からセクハラを受けていると感じています。業務に必要性のないボディタッチがほぼ毎日に及んでおり、身体的な特徴に言及したり、仕事とは無関係の、プライベートな話をされていることは明らかに業務とは逸脱していると言えます。
しかし、カスミさんが退職を決断したのは、男性上司の言動のみならず、それを許容している職場と女性上司の言動でした。
女性上司が行った行為は「セカンドハラスメント(セカハラ)」と呼ばれるもので、ハラスメント対応の際に十分に留意をすべきことの一つです。
セカンドハラスメントとは、ハラスメント行為の被害を受けた人が、その事実を第三者に相談した際に受ける、二次的なハラスメントのことです。
ハラスメントの被害を打ち明けるとき、被害者は当時の「苦しさ」や「辛さ」を改めて思い出すことになります。社内での改善や何らかの処分を望む場合は、被害の状況と事実を整理して伝える必要があり、精神的な負担が大きくなります。
このような状況にある相談者に対して、相談を受ける側がハラスメントの事実を軽視したり、被害者にも責任があるかのような発言をしたりすると、意図せずとも相談者をさらに深く傷つけることになります。また、理解してもらえない辛さや不満から、カスミさんのように対話の機会を打ち切るケースもよく見られます。
カスミさんが受けてきた男性上司からの行為は不快なものであったと思いますし、業務の適切な範囲からは逸脱しています。きちんと調査がなされれば、事実としてそのような言動があったことを確定させ、それに基づいてハラスメントに対する対策や改善要望を出すことができるケースであったと思います。
しかし、カスミさんの勤務先のように性的な言動に無関心な職場では、そのような言動はしてもいいものと認識されていました。その環境に適応した人だけが昇進できるように最適化されてしまう恐れがあります。女性上司は、自分がされたことをどう咀嚼したかを基準に話を聞くべきではありません。このような行為を許すべきではなく、再発を防ぐためには、自分のことと、目の前の被害については切り離して考えることが必要なのです。








