セクハラ、パワハラ、マタハラ...多様な"ハラスメント"が問題視される現代。その根底には常に人間関係があり、誰もが「加害者にも被害者にもなり得る」と社会保険労務士の村井真子さんは指摘します。なかでも加害を受けやすいタイプの一つが「自己主張が苦手な人」です。
本稿では実際の複数の事例をもとに匿名化・再構成したご相談に基づき、その特徴とリスクを書籍『職場問題ハラスメントのトリセツ』より解説します。
※本稿は、村井真子著『職場問題ハラスメントのトリセツ ~窮地の前に自分を守る、取るべきアクションと相談のポイント』(アルク)より内容を一部抜粋・編集したものです
自己主張が苦手な人
本稿では、「自己主張が苦手な人」とは自分の意見や感情、拒否の意思を相手に明確に示すことが難しいタイプを指します。こうした人は周囲との衝突を避けたい、嫌われたくない、あるいは慣れない場面で適切な言葉を選べないなどの理由から、自分が不快感を覚えても「嫌だ」と言いづらい傾向があります。
その結果、セクハラやパワハラなど不当な行為を受けても、あいまいな態度しか示せず、相手に「この程度なら許される」と思い込まれてしまう危険があるのです。
また、このタイプの人は業務量や役割分担についても、要求や調整を申し出るのが苦手なため、過剰な負担を引き受けがちです。問題を一人で抱え込むこともあります。すると、ストレスを長期的に蓄積させてしまい、心身の健康を損なうリスクも生じます。この状況を放置すると、被害がエスカレートしたり、周囲に相談しづらくなったりと悪循環に陥りやすくなります。
こうした人を守るため、組織は、自己主張が苦手な人が遠慮なく相談できる窓口を用意し、意に沿わないことは明確に伝えるロールプレイ研修などを開催し、コミュニケーションスキルを強化するサポートが求められます。
[このタイプの特徴]
▼他者との衝突や調整が苦手で、トラブルが生じると「我慢すればいい」と受け入れてしまう。
▼承認欲求が強かったり、周囲の評価を過度に気にしてしまう傾向がある。
▼相手の感情に敏感に反応したり、先回りして負担を背負い込んでしまう。
断れずに引き受け続けた結果、無理をして限界を迎えてしまう若手社員
[相談]
プロジェクトリーダーになったのをきっかけに、いくつものタスクを任されるようになりました。成長したい気持ちがあったので、上司から「きみにしか頼めないんだ」と言われると、つい引き受けてしまいます。毎日が残業の連続で、プライベートの時間もほとんどありません。
それでも「大変そう」と思われたくなくて、疲れた様子は見せないようにしていたら、さらに仕事を任されるようになってしまいました。最近では、身体的にも精神的にも不調を感じるようになり、ときどき動悸がしたり、朝起きるのが辛いです。
それでも「任せてもらえるだけありがたい」「自分ができないと思われたらチームに迷惑がかかる」と考えてしまい、誰にも言えません。そのせいか、仕事の質も少しずつ落ちている自覚があり、自己嫌悪につながっています。どうすればこの悪循環から抜け出せるのか、正直わからなくなっています。 シュウヤ(30代・男性)
シュウヤさんが「仕事が多すぎる」「心身ともに限界を感じる」と思っているなら、まずは、その事実を認識することが大切です。過重労働は、本人にとっても組織にとってもマイナスになる上、放置すると業務品質の低下や健康被害につながる危険があります。「過度な業務量に苦しんでいる」という状態自体が問題のサインであることを認め、対策を検討する必要があります。
業務を「断る」ことに抵抗を感じる場合は、部署の全体スケジュールを基に「この仕事とあの仕事が重なって期限も近いため、どちらを優先すべきか再調整したい」と上司に相談しましょう。部署全体で「誰が、どの仕事を、いつまでに行うのか」を可視化して進捗管理をすると、一人だけが過度に負担を抱え込む状況を防ぎやすくなります。
また、産業医制度を活用することも有効です。企業は従業員の健康を守る責任があり、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに産業医を選任し、労働者の健康管理を行わせなければならないことになっています(労働安全衛生法第13条)。
産業医が「労働者の健康を確保する必要がある」と認めるときは、事業者に対して、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができます。直接上司に相談しにくい場合でも、産業医を通して客観的な助言を得れば、業務軽減や配置転換など改善策を検討しやすくなります。状況によっては社内外の相談窓口も活用し、早期に過重労働やメンタル面の問題を解消しましょう。
シュウヤさんのように、まじめで「失望されたくない」という気持ちが強い人ほど、限界を超えてしまう傾向があります。
しかし、オーバーワークで体調を崩したり、結果的にパフォーマンスが低下すれば、むしろ周囲の期待には応えられなくなります。自分を長期的に活躍させるためにも、適切な自己管理と健康が欠かせないことを認識し、要望への応え方を見直すことが必要です。








