面倒な作業をつい先送りにしてしまう「先延ばし癖」に悩む人は少なくありません。
スウェーデンに住む久山葉子さんは、著書『スウェーデン人はなぜ朝の3時間で仕事が片づくのか』の中で、研究結果をもとに"脳には切り替え時間が必要"だと語っています。その切り替え時間とはどのようなものなのか。効率を上げる習慣について同書より紹介します。
※本稿は、久山葉子著『スウェーデン人はなぜ朝の3時間で仕事が片づくのか』(PHPビジネス新書)より一部を抜粋・編集したものです。
脳には〈切り替え時間〉が必要
スウェーデンでは2000年ごろに『時間に関する10の思索』(1999年、未邦訳)という本が65万部の大ベストセラーになった。人口が日本の13分の1だということを考えると、社会現象と言ってもいいだろう。
著者のボーディル・イェンソン教授は1942年生まれの物理学者で、彼女が提唱した〈切り替え時間〉の概念も、スウェーデン人の人生の考え方に大きな影響を与えた。
1分で集中できる人はいない
切り替え時間とは、何かの作業に手をつけるまでに必要な時間のことだ。
たとえば工場では、機械を稼働して実際に製品をつくり始める前に色々な準備や設定が必要だ。人間の脳もそれと同じで、この作業をしようと思った瞬間に集中して取り組めるわけではない。
最近は一歩も動かずにパソコンの前で色々な作業ができる便利な時代になった。
かといって、オンラインミーティングで仲間と活発にアイデアを交わし、「良いミーティングだったな」と充実感を覚えた1分後に、同じパソコンの画面でまったく別のプロジェクトのプレゼンをつくる作業に没頭できているかというと、それは無理だろう。
ミーティングの余韻がまだ残っていて、脳が新しい作業に注目を向け、集中するまでには時間がかかる。そのため、プレゼンのファイルは開いたものの、関係のない情報を検索したり、メールの返信をしたりしてしまう。
なぜ難しい作業を後回しにしてしまうのか
イェンソン教授は作業の種類を4つに分類している。
①簡単で楽しいもの
②難しくて楽しいもの
③簡単で退屈なもの
④難しくて退屈なもの
今日のやることリストにこの4種類があったら、普通はまず①に手をつけ、その次に②か③、そして④はやらないままになることが多いのではないだろうか。
楽しいか退屈かよりも、急を要するか要しないかという要素で決める人もいるかもしれない。その場合でも、①簡単で急ぎのもの ②難しくて急ぎのもの ③簡単で急ぎではないもの ④難しくて急ぎではないもの の順で手をつけていくことになり、長期的には④が一番大事だったとしても、永遠にたどり着かないのが現実だ。
イェンソン教授はその先延ばし現象を、〈切り替え時間〉の長さが原因だと指摘する。
簡単で楽しい仕事(①)の場合、作業を始める時の〈切り替え時間〉はほぼゼロだ。
しかし難しくて退屈な仕事(④)となると、切り替えにすごく時間がかかることを脳が無意識にわかっていて、なかなか手がつけられない。しかしそれは「長い〈切り替え時間〉を非生産的な時間だと見ているところに問題がある」とイェンソン教授は指摘する。
ではどうすればいいのかというと、次の2点が重要だという。
・ 「先延ばしをしている」と自分を責めずに、〈切り替え時間〉の存在を受け入れる
・ あらかじめ〈切り替え時間〉をプランニングに入れておく
前者は日本で言う〈段取り8分、仕事2分〉の概念に近いかもしれない。プランニングをする時はつい、「純粋に作業にかかる時間」だけを計算してしまうが、そうすると計画どおり進まずに、ストレスを抱えることになる。
自分はどの作業にどれだけの〈切り替え時間〉が必要なのかを考え、プランニングに反映させていこう。
チャットやメールの通知音を切る理由
イェンソン教授の本がスウェーデン人の時間のバイブルになったちょうど20年後、今度は『スマホ脳』がベストセラーになった。そこでは〈切り替え時間〉のことがより科学的に説明されている。
ひとつの作業から別の作業に意識を移すにも、〈切り替え時間〉が必要になる。
たとえば集中して作業をしている最中に、メールの着信音が鳴ったとする。スマホを手に取り、何のメールなのか確認すると、社内の全員に向けたニュースレターだった。返信すらしなくていい。さっそく元の作業に戻る――その間3秒。
しかし脳は〈注意残余〉といって、メールを確認するという作業に残ったままの状態になっている。そこから再び元の作業に100%集中するまでには何分もかかってしまうのだ。
作業を切り替えて集中するには、その都度〈切り替え時間〉が必要になる。そういうムダな〈切り替え時間〉を極力減らすために、チャットやメールの通知音は切って、チェックするのは90分に1度と決めるなど、対策が必要だ。
オフィスで作業中に人に話しかけられて、また作業に戻るときも時間のロスが大きい。独りになれる場所で作業できないのかも検討に値するだろう。
私自身も1日あるいは1週間のうちの〈切り替え時間〉をなるべく少なくするために、プランニングする時点であれこれ違った作業や予定を入れずに、1つのことに集中できるようにしている。なるべく作業をひとつずつ終わらせることで、〈切り替え時間〉を最小限に抑えたいところだ。
作業に合わせて場所を変える
切り替えに時間がかかるのは重々承知だが、それでも1日に複数の作業をしなければいけないこともある。前の作業を出て、新しい作業に入りやすくするためには、環境を変えるのも良い手だ。
『スマホ脳』のハンセン先生は、毎朝カフェに行ってブレインストーミングをするという話はすでに書いた。
彼は独り暮らしなので、家にいても邪魔が入るわけではない。しかし静かすぎるよりもカフェの適度な雑音が集中しやすいそうだ。そういう人は一定数いるらしく、カフェの雑音を流してくれるYouTube の動画や音楽配信サービスもある。
音楽を聴きながら仕事をするのが好きなら、アップビートな曲がクリエイティビティに必要な「発散的思考」を促進してくれるという実験結果もある。
あまり実用的ではないかもしれないが、今まで聞いた中で一番印象深かった仕事場所は、スウェーデンの若手人気ミステリ作家で、犯罪学の准教授でもあるクリストファー・カールソンが「ミステリの執筆が一番はかどる」と言っていた場所だ。
それはなんと、病院の救急病棟の待合室。次々と急患が運びこまれる独特の雰囲気に、執筆テンションが上がるのだという。しかし毎日待合室でパソコンを叩いているうちに、さすがに怪しまれ、追い出されてしまった。
できる範囲で仕事環境にバラエティをつけ、自分にとって最適な環境をみつけよう。









