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自分の選択を「正解」と思える人の幸福度が高い理由

堀田秀吾(明治大学教授、言語学博士)

2026年10月13日 公開

自分の選択を「正解」と思える人の幸福度が高い理由

やっぱりあの服、買わない方が良かったかな...そんなふうに「自分の選択は間違っていたかも」と、後になってから悩んだことがあるかもしれません。同じ選択であっても、考え方1つで正解にも不正解にもなるため、「自分の力で選択した行動を正解にすることが大切」と、言語学者で明治大学教授の堀田秀吾さんはいいます。ここでは、幸福度を上げる4つの習慣を見ていきましょう。

※本稿は、堀田秀吾著『心理学×脳科学×行動経済学で科学的に証明された 悩まない人の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

自分に都合よく解釈する勇気を持つ

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のテイラーと南メソジスト大学のブラウンは、心の健康と現実認識の関係を分析しました。そして「ポジティブ・イリュージョン(自分にとって都合のよい思い込み)」という考え方を示しました。その具体的な内訳は、以下の3つです。

①自分を平均より少しよく見積もる

②出来事を自分の力でコントロールできると感じる

③未来を実際より明るく予想する

複数の調査からわかったのは、抑うつ症状のない人ほど、この3つの思い込みを強く持っていたということです。逆に、抑うつ状態にある人は、自分の能力や未来をより正確に評価していました。研究者たちはこれを「悲哀の叡智」と呼びました。

正確さと心の健やかさは、両立するとは限りません。むしろ、少しくらい思い込みの強いほうが、日々のストレスから心を守るクッションとして働いていたのです。さらに、ポジティブ・イリュージョンを持つ人ほど、人間関係への満足感が高く、創造的な作業に取り組みやすく、ストレスからの回復も早い傾向があると示されました。

たとえ思うようにいかないことがあったとしても、「うまくいかなかった」と決めつける前に、「こういう解釈もできる」と考えてみてください。まったく同じ出来事でも、悪い面を見て落ち込む見方と、まだ良い面が残っていると考える見方のどちらを選ぶこともできます。

そして、どちらを選ぶかによって、そのあとの気持ちの立ち直り方が変わってきます。悪い面ばかりを見ていると、次に動き出すまでに時間がかかりますが、良い面も見ておくと、気持ちを切り替えて次の行動に移りやすくなるのです。

【今日すぐできること】

・「こういう解釈もできる」と考えてみる

・悪い面だけでなく、良い面にも目を向ける

 

「自分で決めた」感覚が幸福度を上げる

ロチェスター大学のデシとライアンは、人が長く健やかに生きるには、自律性、有能感、関係性という3つの心理的な栄養が欠かせないと述べています。なかでも自律性とは、自分の行動を自分で選んでいるという感覚のことです。

彼らの理論では、たどりつく先が同じでも、自分で決めたと感じられた行動のほうが満足度も持続力も大きく上がるとされています。この考え方に沿えば、運動のように続けにくい習慣であっても、ほかの人から指示されるより、自分で選んだと感じられる形で支えられたほうが長持ちするということになります。

ミシガン大学のイングルハートらは、50カ国以上、30万人を超える国際調査をもとに、長期的な幸福度の変化を追いました。経済の発展、民主化、社会の寛容さといった条件が並ぶなかで、幸福度の伸びとはっきり結びついていたのは、人々が「自分の人生を自分で選べている」と感じている度合いの上昇でした。この感覚だけで、幸福度の変化のおよそ30%が説明できたといいます。この結果は、経済的な豊かさよりも、自分で選んでいるという実感のほうが幸福感にとって強い影響力を持つことを示しています。

朝の小さな選択でかまいません。着る服を選ぶ、休憩のタイミングを選ぶ、メールの文面を考える。そのひとつひとつに「これは私が決めた」と心の中で決裁印を押してみてください。この習慣は、家事や育児のように一見選ぶ余地がなさそうな場面でも応用できます。決められた作業の中にも、順番や進め方など自分で選べる部分は必ず残っています。

【今日すぐできること】

・小さな選択にも「これは自分で決めた」と考えてみる

・選択の理由に「私がそうしたかったから」を付け加えてみる

 

選んだ理由を1つだけ覚えておく

さんざん迷って長い時間をかけて決めたはずなのに、選ばなかったほうの選択肢を未練がましく考えてしまったりします。「もしあっちを選んでいたらどうなっていたんだろう」「自分は選択を間違えたのでは」という声が頭の中で鳴りやまない。考えすぎる人にはかなり覚えのある感覚だと思います。

私たちの心には、決めたあとの自分を助ける働きがもともと備わっています。それを最初に実験で捉えたのは、ミネソタ大学のブレームでした。半世紀以上前に行われ、その後の心理学の土台のひとつになった古典的な研究です。

女子学生225人に、コーヒーメーカーやトースター、ランプといった家庭用品8品の望ましさを8段階で評定してもらい、謝礼としてそのうち2品からひとつを選んで受け取ってもらいました。そしてしばらくしてから、同じ品々をもう一度評定してもらったのです。

すると、甲乙つけがたい2品で迷って選んだ人たちでは、選んだ品の評価が平均0.26点上がり、選ばなかった品の評価は0.66点下がっていました。品物そのものは何ひとつ変わっていません。変わったのは心の中の順位だけです。つまり、迷った末に選んだものほど、決めたあとで心が「ひいき」を始め、あとから好きになっていきやすいのです。

この働きは、認知的不協和の解消と呼ばれています。決めたのに未練がある、という矛盾する気持ちのままでは落ち着きません。そこで心が評価のほうを動かし、つじつまを合わせるのです。

だからこそ、決めたあとの過ごし方が重要です。おすすめは、選んだ理由をひとつだけ言葉にして覚えておくことです。この商品は手入れが楽だから、この会社はアクセスが良かったからなど、完璧な理由でなくてかまいません。理由は1つで十分です。むしろ並べすぎると、あとで一つひとつが再審査の対象になってしまいます。

そして、選ばなかったほうの情報をわざわざ見に行くのをやめましょう。買わなかった商品の情報も、選ばなかった転職先の近況も、もう見なくていいことです。決めたあとの再比較は、心のひいき機能がこつこつ進めている作業をいちいち白紙に戻してしまうからです。

【今日すぐできること】

・選ばなかったほうの情報はわざわざ見に行かない

・自分の選択に納得するためにも比較をやめる

 

自分の選択に保険をかけない

買い物では返品できるお店を選び、旅行はキャンセル料のかからないプランを予約。家具を選ぶときも、習いごとを始めるときも、いつでもやめられることや、あとから変えられるかどうかをまず確かめる。こんなふうに変えられる余地を残しておくと安心できます。ただ、そうした保険こそが、選んだものを好きになる邪魔をしているということが研究からわかっています。

ハーバード大学のギルバートとマサチューセッツ工科大学のエバートは、写真の講座を使った実験を行いました。受講者は、自分で撮影した写真の中からお気に入りを2枚プリントします。そのうち1枚だけを手元に残します。このとき半分の人には「あとで気が変わったらもう1枚と交換できます」と伝え、もう半分には「いちど選んだら交換はできません」と伝えました。

数日たってから満足度をたずねると、交換できないと言われた人たちのほうが、自分の残した1枚を気に入っていて、いつでも取り替えられるはずの人たちは、手元の写真への愛着がなかなか育ちませんでした。

しかも、別の参加者にこの実験の結果を予測してもらうと、交換できるかどうかで気持ちは変わらないと考えたうえで、自分が選ぶなら交換できる条件のほうがよいと答えています。つまり私たちは、自分の満足を下げるほうの選択肢を良かれと思ってわざわざ選びたがるわけです。

人の心には、もう動かせなくなった現実を前向きに受け止め直す働きが備わっています。「これだ」と決めてしまえば、良かった点を探し出し、これでよかったのだと折り合いをつけていくものです。

ところが引き返す道が残っていると、この働きがうまく起動しません。まだ変えられると思っているあいだ、頭は候補どうしの比較と採点をやめることができないのです。写真の実験で起きていたのも、そうした足踏みの状態でした。

迷いやすい人ほど、決めたあとの退路を自分から断つ価値があります。服や家電を買ったら、返品の段取りを調べる前に箱と伝票を片づける。習いごとを決めたら、他の教室の資料は処分する。転職や引っ越しのような大きな決断でも、決めた日を境に求人サイトや物件情報をのぞかないと決めてしまう。こうして見比べる材料を断つことが、選んだものへの愛着を育てる水やりになるのです。

【今日すぐできること】

・決めたら、比較材料を処分する

・使うつもりのない退路を持ち続けていないか振り返る

プロフィール

堀田秀吾(ほった・しゅうご)

言語学者(法言語学、心理言語学)・明治大学教授

司法分野におけるコミュニケーションに関して、社会言語学、心理言語学、脳科学などの様々な学術分野の知見を融合した多角的な研究を国内外で展開している。著書に『ハーバード、スタンフォード、オックスフォード… 科学的に証明された すごい習慣大百科』(SBクリエイティブ)など多数。

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