ケーキの革命児が「アナログ」で成功したワケ
2012年10月30日 公開 2022年08月24日 更新
デジタル社会で"アナログ処世術"
そんなスピード化、効率化社会で仕事をするなかで、何かひっかかったり、あと一歩の充足感が得られない、と感じたことはないでしょうか?
「あと少し人間関係ができていれば、もっと良い結果が出せたのではないか」「効率は身につけたが、振り返ったときに何も残っていない感じがする」等々。
誰かから恩を受けたときや素敵な贈りものをもらったときには「この感謝の気持ちを伝えたい」「相手に喜んでもらえるお返しをしたい」と思うでしょう。それは人間が、あらゆる哺乳類のなかで唯一感情を持つ生き物である所以(ゆえん)であり、人間の本能のあらわれでもあるのです。
自分がしてもらったらうれしいことを相手にする。相手が何をされたら喜ぶかを想像して行動する。人間関係を築くうえで、もっとも堅実かつ確実な方法です。
こうしたことをプライベートの世界だけではなく、ビジネスの現場にも持ち込めば、密な人間関係をもっと容易に築くことができますし、やがては大きな渦となってたくさんの人を巻き込み、あちこちで無数の果実を実らせることができます。
スピード一辺倒の世界では、こういう情緒的な行動は真っ先に排除されてしまうかもしれません。ビジネスはもっとドライでなくては、と思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし私は、こうした"アナログ処世術"こそ、現代社会で力を発揮すると思います。人間は機械と違って計算不能、予測不能なアナログ的存在です。人間の心に揺らぎを起こすには、計算ではなく、経験と直感と、そしてほんものの真心がものをいうのです。
相手の心の動きをキャッチできれば、その人の懐に入り込むのはそれほど難しいことではありません。そして、いったん相手の奥深くへ入ってしまえば、あとはとことん腹を割った深い付き合いができるのです。
人間の一生は、なんとも長い時間です。そのうち、働いている期間は40年、あるいはそれ以上もあるでしょう。その長い時間を、仕事を通じて豊かな人間関係のなかで過ごすことこそ、本当に豊かな生き方と言えるのではないでしょうか?
時間をかけて育てた「緑」は、じっくりと実を結びます。その「緑」を育むのに不可欠な栄養分となるものが、私にとってはアナログな"お礼とサービス"だったのです。
「やりすぎでは」と思われることもあるでしょう。しかし、私の仕事人生は七転び八起きの繰り返しで、ひどい時には七転八倒でした。それでもこれだけ大勢の人の笑顔を見られたこと、いまだにその数が増え続けているということは、この"アナログ処世術"のおかげだと確信しています。
近藤昌平(こんどう・しょうへい)
愛知県一宮市生まれ。父から継いだ和菓子の「萬寿堂」ののれんを下ろし、1966年、洋菓子の「ボンボヌール」を設立。国内初のケーキの頒布会を始める。黒をイメージカラーとし、無店舗販売で1000以上のオリジナルケーキを世に送り出すなど、その斬新なスタイルから「菓子業界の革命児」と評される。また、「人生は出逢いの旅」と公言し、自身の幅広い人間関係を礎に異業種交流会VAV倶楽部を開催して、多くの参加者、賛同者を集めている。