産学連携によるグローバル人材の育成で日本を再生する
2018年05月31日 公開
企業と大学に求められている使命と役割
世界を目指す若者が少なくなっている――。そんな危惧が日本の産業界を覆っている。グローバル化がますます加速する中、世界で戦える人材が不足すれば、日本の国力低下にもつながりかねない。世界で活躍する人材を育てるために、高等教育を担う大学と社会人教育の最前線にいる企業は、どう連携できるのか。大学に多額の寄付を行ない即戦力となる研究者・技術者の育成に乗り出した日本電産の永守重信会長兼社長と、京都大学の総長として数々の教育改革を実践している山極壽一総長に、それぞれの立場から人材育成論を交わしていただいた。
取材・構成:高野朋美
写真撮影:白岩貞昭
日本の若者に欠けているもの
永守 日本電産ではこれまで、ざっと6000人ぐらいの新卒者を採用してきましたが、最近の新卒者は、英語もしゃべれないし専門性も低いと感じます。経済や経営を考えてもらおうにも、バランスシート一つ読めない。日本の生産性の低さは、こういうところに一因があるように思いますね。
かたや海外の人材は、非常に即戦力性が高い。ドイツ人を雇用してもみんな英語ができますし、入社後すぐに設計ができるような人材もたくさんいますよ。
山極 今の日本の若者は、世界に対する気概が欠けていると感じます。挑戦心が足りないと言い換えてもいい。しかし、世界では今、産業革命や明治維新の時のように、パラダイムの変換が起きようとしています。永守さんが手がけておられるモーターの開発も、世界のシステムを大きく変えましたよね。同じように、人工知能が人間を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)によって、地球環境や社会そのものが変わるという予感が生まれています。
そうした大変革を目前にした時代にありながら、世界に向かって「自分たちの力で世界を変えてやるんだ!」という気概を持たせることができないようでは、学問の府とは言えないと思っています。若者には、もっと挑戦意識を持ってもらわなくてはなりません。
永守 わが社は今の計画でいくと、2020年には1000人くらいの新卒者を採用する予定です。でも、問題は人数ではなく、学生たちの中身。そこに焦点を当てた取り組みをしっかりとやらないといけない。
ただ、日本の若者の現状を、政府のせいだ、大学のせいだと言っても始まりません。研究費の不足など、いろいろな要因があるでしょう。京都大学にモーターなどを研究する講座を寄付させていただいたのは、微力ながら大学教育を応援したかったからです。
京都大学だけでなく、京都学園大学にも寄付をしていますが、私はここで新しい大学教育の試みを行なうつもりです。いっぺん自分で教育をやってみようと考えたのです。やってみれば「やっぱり人材を育てるのは難しい」となるのか、「いや、こんなふうにすれば企業が欲しがる人材を育てられる」となるのか、はっきりしますからね。
こういう話をすると、周囲から「永守さん、あんたが思うてるほど簡単なことではないよ」と言われますが、新しいことをやる時は、皆さんたいてい否定から入る。私が日本電産を立ち上げた時も「オイルショックの時期に会社なんかつくったら失敗する」と言われた。これはアドバイスではなく、変革を拒む気持ちの表れでしょう。
今回の試みに対しても「あんたが考えているカリキュラムを文部科学省がOKするわけがない」と否定されていますが、私が一生懸命説明すると、それを理解してくれる人が必ずいる。だから、あきらめずに、できることはやろうという心境でいます。