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社会

エマニュエル・トッドの警告「コロナが覆い隠した日本の本当の危機」

エマニュエル・トッド(訳:大野舞)

2020年07月24日 公開 2023年01月11日 更新

エマニュエル・トッド

コロナ危機で覆い隠された、日本の「本当の危機」

しかし、それでも考えなければいけないことは、2019年時点でフランスは人口の自然増をキープしている一方、日本やドイツでは人口の自然減が深刻であるということでしょう。社会の最優先事項は、(経済的な)生産の前に、出産なのです。

日本社会はこのコロナ危機もわりとうまく切り抜けつつあるように見えます。それは日本文化や社会的なディシプリン(規律)のおかげなのかもしれません。

しかし、あるレベルにおいては、日本のように「完璧」を追い求めることや、実際に日本にある「完璧」と言えるような状態というのはその社会にとって、重荷にもなるのです。だから人口減少が起きている。私はそう捉えています。

例えば、変わりつつあるとはいえ、日本と移民との関係というのはいまだに難しいものがあります。近著『大分断』で詳しく述べていますが、日本でも、フランスのように教育による格差の広がりがあり、グローバル化の悪影響も受けています。

それでもやはり他の国に比べると比較的持ちこたえていると思います。ですが、これらは人口の増加を犠牲にした上で成り立っているため、少子化が抑えられません。

あるレベルにおいては、社会的な格差よりも人口の収縮の方が深刻な問題になりうるのです。日本に関しては人口の問題を何とかするしかないのです。

米中覇権争いなど世界で国家間関係が再編されている今、日本の将来についても再考するべきでしょう。これは急務であると言えます。なにせ日本はこれから移民を受け入れなければならないからです。それは単純に国内のバランスを保つためでもありますが、老いていく社会の高齢者たちを支えるためにも必要でしょう。

移民については、中国など隣国との関係性をしっかり把握した上で、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどからの受け入れを優先する方法もうまくいくのではないでしょうか。ヨーロッパからの移民だってありえると思います。

また、さらに言うならば、天皇陛下が移民についてスピーチなどをすることは非常にいいことではないかと思います。というのも、この移民の受け入れというフェーズは日本にとって明治維新ほどの重要性を帯びるはずだからです。

明治維新は日本が植民地化されずに生き抜くために起きたわけですが、それと同じように、少子化は今後日本という国が生き延びられるかどうかという問題と深く関わっているのです。

 

日本に必要なのは「少しばかりの無秩序」

さらに、人口減少の対策として必要なのは女性の地位向上です。私が数年前の時点で感じていたのは、安倍政権が問題の根本にある人口減少ではなく、経済の側面にばかり注力しているのではないか、ということです。

日本に不可欠なのは、女性が普通に仕事をして子供を産める環境が整うことです。同じく出生率の低いドイツや韓国もそうなのですが、直系家族の文化(父権制社会)では女性の地位が低くなることが多く、この点が問題になりがちです。人口減少に対処するために日本に必要なのは、経済状況の改善ではなく、男女の関係に大変革が訪れることなのです。

これからの日本に必要なのは「少しばかりの無秩序」であると私は謹言したい。男女間での無秩序、家族内での無秩序、そして移民を受け入れることで発生する無秩序。日本社会のように完璧を常に求めることは、ある程度発展した社会では逆に障害になってしまうからです。

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