ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。…登録者140万人YouTuberが見つけた “バズる曲”の共通点
2021年07月21日 公開
「カラオケで歌わせる気がない曲」の流行
――現在はYouTubeでの活動も話題を集めています。動画を投稿する際に意識していることは何ですか。
おしら 根本はボイストレーナーの活動と共通しています。大前提として心がけているのは、視聴者にとってなるべく楽しく、わかりやすく配信すること。
加えて、動画で取り上げるミュージシャンや曲は、「誰かにとって大事な人やもの」である事実を忘れないように気をつけています。たとえば「嵐」の名曲『Love so sweet』を解説するとしたら、それは多くの方にとって人生の支えとなった大切な曲のはずです。
だからこそ、歌い手である「嵐」のメンバーに失礼がないのはもちろん、ファンの方々が観たときに心地良く感じてもらえるような伝え方を意識しています。
――楽曲に関する専門的な解説はもちろんのこと、誰のことも傷つけない動画に癒される視聴者も多いのではないでしょうか。
おしら それでも、ふとした一言から批判のコメントをいただくこともあります。私も大好きな男性二人組のボーカルユニット「C&K」について解説していたとき、メンバーのKEENさんの声が平井堅さんに近いとコメントしたんです。
するとファンの方から、KEENさんの歌声を他のミュージシャンと比べること自体に対して、お叱りの言葉が届きました。
ファンにとってKEENさんは唯一無二、言うなれば「神」のような存在です。それを他の方と比較すること自体がナンセンスで、私の考えが至りませんでした。
もちろん、褒め言葉として発言したつもりではあったものの、発信する以上はつねに想像力を巡らせないといけないと痛感した出来事です。
とくにYouTubeは、動画の配信前に自分で内容をすべてチェックできる利点があります。だからこそ、ちょっとした発言にも注意を払うように心がけています。
――YouTubeの普及は音楽シーンにも多大な影響を与えてきました。たとえば最近では、旬のミュージシャンが一発撮りで収録したパフォーマンスを配信するチャンネル「THE FIRST TAKE」が注目を集めています。
おしらさんもご自身のチャンネルでよく取り上げていますが、最近のミュージシャンの特徴は何かありますか。
おしら 悪い意味ではなく、昔と比べて「カラオケで歌わせる気がない曲」が増えたように感じますね。
――どういうことでしょうか?
おしら 音程やテンポ、さらに息継ぎの間が取れないくらい難解で、一般の方が簡単には歌えないような曲が多くなった、ということです。
かつての日本のミュージックシーンでは、「カラオケでの歌いやすさ」が楽曲にとって重要な要素でした。しかしいまは、そうした「生っぽさ」は薄れている気がします。
――なぜ複雑で歌うのが難しい曲が流行しているのでしょうか。
おしら ネットミュージックの台頭が背景にあると思います。いまや日本を代表するボーカリストである米津玄師さんも、当初はインターネットを中心に活動していましたよね。
ボカロ(ボーカロイド、音声合成技術)を中心とした緻密なネットミュージックは、いまの日本でますます普及し続けています。
またネット時代においては、SNSでバズる(爆発的に話題になる)ことが重視されます。
世の中にこれだけコンテンツがあふれるなかで注目を集めるには、プロでも簡単には出せないハイトーンボイスで歌唱したり、印象的なフレーズが歌詞に散りばめられていたりと、何よりもインパクトが求められます。
そう考えると、難しい曲を一発撮りで歌い上げる「THE FIRST TAKE」をきっかけにミュージシャンがブレイクするのは自然な流れなのかもしれません。
――おしらさんがいま注目しているミュージシャンを挙げるとすれば、どなたでしょうか
おしら 素晴らしい歌い手を挙げるときりがないのですが……(笑)、とくに「顔を出していない勢」が気になっています。
たとえば『春を告げる』がヒットしているyamaさんや、「ヨルシカ」のsuiさんは、紙一重の微細な音程まで見事に操っていて、基本的な音楽能力がずば抜けていると感じます。
あと、「ずっと真夜中でいいのに。」のACAねさんは、音域の広さが異次元です。高音だけが出る方はけっこういるのですが、上下両方の音をあれだけ美しく発声できるのは尋常ではない。
いま挙げた3人は、どなたも素顔を出していません。ビジュアルに関係なく、音声だけで多くの人の心を動かしているわけです。だから彼ら彼女らについて動画でレビューするときは、ついついテンションが上がってしまうんですよね(笑)。