仕事に満点を求めない
「やることが多過ぎ。何でこんなに次から次へ仕事が増えちゃうんだろう」
職場で同僚たちから頻繁に聞かれるフレーズだ。あなたはどうだろうか。
「この仕事なら、だいたい10日から2週間あればできるな」などと考えていても、不思議なことに、仕事の総量は、その間にどんどん増え、「結局、3週間もかかってしまった」ということになりかねない。
20世紀の英国の政治学者、シリル・N・パーキンソンは、これを、「仕事量は、与えられた時間を使い切るまで膨張する」などとする法則にまとめ、著書『パーキンソンの法則』で紹介している。
これは、やるべき仕事にまつわる枝葉のような作業が、仕事を進めているうちに次々と生まれてくることに原因がある。
誰しも、与えられた仕事はきちんとこなしたいという思いがあり、上司や同僚をはじめとする関係スタッフの意見や要望をできるだけ汲み取ろうという意識が働くため、当初、想定していたよりも作業が増え、余計に時間がかかってしまうのだ。
私も、仕事は完璧を目指すタイプで、また、ステークホルダーには一定の配慮をするように努めてきたので雑用まで増え、日々のワイド番組のオンエア準備や新番組の企画が思うように進められないもどかしさを感じてきた。
そこで、ちょうど、執筆の仕事や大学講師などの仕事が舞い込み、1日24時間という与えられた時間を効率的に使う必要性に迫られた40歳あたりから、次のことを念頭に、パラダイムシフト(=発想の転換)を図ってみることにした。
1つは、「すべての仕事に満点は必要ない」という考え方の導入である。
たとえば、上司から「ラフでいいから企画書を作ってみて」と依頼された場合、依頼どおりにラフな案を作ってみるのだ。
最初から満点を目指したとしても、会議にかければ異論は必ず出る。だとすれば、第1稿は、まずまず及第点をもらえる70点程度の内容でまとめ、その代わりに素早く提出してスタッフ全員の知恵を反映させたほうが、最終的にはいいものが仕上がる可能性が高くなるからだ。
そうしたほうが、本当に満点を目指さなければならない仕事にかける力と時間とを温存できる。
さきほどのパーキンソンの法則には、「組織はどうでもいい物事に対して、不釣り合いなほど重点を置く」という指摘もある。
実際、私の職場でも、「こんなくだらないことに何で部長は時間をかけようとするのか」「こんなことに時間を費やして何のメリットがあるのか」と思えるような指示や伝達は山ほどある。そういうものは、「ほどほどにやっておけばいい仕事」に分類し、無理にこだわりなど持たず処理したほうが得だ。
また、自分でパッとアイデアやイメージが浮かばないような仕事、あるいはこれまでやったことがない社内手続きなどの雑務は、遠慮なく前任者や経験豊富な同僚の助けを借りたほうが賢明だ。
ちょうど試験勉強で解法がわからない問題に直面した際、すぐ答えを見て、考え方や解き方を理解したほうが、時間が節約でき、次に類題を解くときにも役立つように、「自分一人で……」などと気負わず、すぐに助言をもらうほうが効率的で結果もよくなる。
もう1つは、「何を求められているのか」ということである。
「今回、上司は私に速さを求めているのか、それとも質の高さを求めているのか」
「この仕事、私は何を達成すれば、成功したと言えるのか」
このように、自分に求められているものがわかれば、それを重視し、それ以外は及第点がもらえる程度にこなしておけばいいという、言うなれば「事業仕分け」ができるので、思い切りよく動けるようになる。
これらの考えに変え、近年、「清水さん、仕事速いですね」と言われることが多くなった私は、「これは全力、こっちは70点」「これはやる、こっちは特に求められていないからやらない」などと、今日も仕事をふるいにかけている。