「依頼された仕事を受けるか、断るか」「ランチは中華か、いつもの定食屋か」など、私たちは日常の中で、大なり小なり様々な決断をしている。
中には、判断に迷っている内に、せっかくのチャンスを逃してしまったという苦い経験を持っている人も少なくないはず。
パラレルキャリアを持ち、政治・教育ジャーナリストとしても活躍する清水克彦氏に、できるビジネスパーソンに共通する考え方を聞いた。
※本稿は、清水克彦著『1秒速く動く人になる習慣』より、一部を抜粋・編集したものです。
決断は“スピード”が最大の武器
私たちの生活は日々、決断の連続だ。
「ランチは中華? それとも普通の定食?」「アフターファイブは居酒屋? それともカラオケ?」、それに「こっちのセーター、買うべきか思いとどまるべきか」など、意思決定の場面は次々とやってくる。
職場でも、「この企画、通すべき?」「A君とB君、どちらに任せるか?」「今回の依頼を受けるか断わるか……」など、判断をしなければならないケースは枚挙に遑がない。
しかし、そこで考え込んでしまうと時間だけが過ぎていき、限られたランチタイムはあっという間に終わってしまうし、仕事で言えば、締め切りまでの時間が短くなり、作業にかける時間が少なくなってしまうので要注意だ。
極端な言い方をすれば、「じっくり考えて決断する」タイプよりも、「即決してすぐに行動する」タイプのほうがうまくいく確率は高い。
私は番組プロデューサーとして、日々、放送作家と呼ばれる人たちに、番組の各コーナーの台本を発注している。仮に、A君は熟慮タイプで、B君は決断も作業も速さだけが「売り」の作家だとすると、結果的にB君が書いた台本のほうが、完成度が高くなるケースが多い。
すぐに「引き受ける」と決断して作業に取りかかり、出来上がってきた台本が、仮に「拙速」と言いたくなるような内容であったとしても、早くできている分、書き直させることができる。
私が修正を加える時間的余裕だって生まれる。少なくとも、放送時間という最終的な期限に間に合わないなどといった最悪の事態は回避できる。
実際、私が声をかける作家陣は、即断即決で仕事に取りかかり、早めに仕上げるタイプの人間ばかりである。
そんな私自身も、「中身はさておき、スピードだけはある」と言われてきたタイプだ。そうでなければ、ただでさえ「超多忙」が代名詞の在京放送局で仕事をこなし、他に、執筆や講演、大学講師などを兼務することは到底できなかっただろう。
では、なぜ、スピードが速いのか? それは、これまで述べてきたように、意思決定までの時間が短いからにほかならない。そのコツは次のようなものだ。
○「早く始めれば、その分、早く終わる」と考える
どっちみち処理しなければならない仕事であれば、さっさと片づけたほうが気持ちが楽になる。「先送りする言い訳」を探しているぐらいなら最初に片づけたほうがすっきりする。
○「熱が冷めないうちに」「調子がいい今のうちに」と考える
「仕事への意欲がある」「今日は調子がいい」という波はそうそうこない。そういうときは、少し無理をしてでもできるだけ多くの作業を集中して片づける。
○「最重要課題でないものに時間はかけない」を習慣にする
失敗すれば巨額の損失が出る可能性がある場合や、社運を賭けたビッグプロジェクトなら話は別だが、雑務の範疇に入るような仕事には時間をかけないことをポリシーにする。
たとえば、会議の議事録などは会議中に作成する、伝票処理は請求書が届いたその場で行い、「後で」などと考えない。
○「余計なことは考えず、自分の判断基準を持つ」を心がける
「うまくいかなかったらどうしよう」などと先に結果を考えない。上司や同僚の顔色も気にしない。「自分らしくやればいい」と考える。
仕事を先延ばしし、後で片づけようとすれば、即断即決した場合の2倍以上のエネルギーを要するものだ。
加えて、職場では、即断即決して行動に移さなければ、気乗りしない「やらされ仕事」がどんどん溜まり、前日や前々日にふられた仕事と合わせ、「持ち越し仕事」が増える一方になるので、すぐやる人、すぐ動く人になるには、「思考→意思決定→実行」へと至るスピードを大事にしていただきたいと思う。
苦手なことは「得意な人」に任せる
アメリカの心理学者でキャリア研究の第一人者、エドガー・ヘンリー・シャインは、自分を見つめる際、次の3つが重要だと述べている。
○自分は何が得意か(=得意領域)
○自分は何をやりたいのか(=関心領域)
○何をやっている自分に価値を感じるか(=価値領域)
私は、ビジネスシーンで、これらの3つの領域を意識することが、すぐやる人、すぐ動く人になるセオリーの1つと考えている。
得意な領域なら、すぐやる気になる。関心がある領域であれば、取りかかることが苦にならない。また、価値を見出せる領域だと、モチベーションも高まるからだ。
もっとも、あなたがまだ20代で、あなたが身を置く職場や業界の仕事やルールをさまざまな経験を通して体得する年齢であれば、不得手な領域であっても、そして、あまり関心がなく、それを成し遂げることに特に価値も見出せない領域の仕事であっても、「修行」と割り切り、挑戦してみる姿勢が求められる。
しかし、職場でいくつかの部署を経験し、自分の志向性がはっきりしてきた30代、あるいは、ある分野のスペシャリストとして、これまでのキャリアをベースに大きな責任を伴う仕事を任せられる40代以上ともなると、シャインが示した3つの領域を意識して仕事をしたほうが、初速のスピードは断然速くなる。
したがって、取りかかるまでのスピードを速くし、仕事そのものを効率的に処理するには、これら3つに該当しない仕事は、その仕事が得意な人、関心を持っている人、その仕事をすることに価値を見出せる人に、できるだけお願いしたほうがいいということになるのだ。
私の場合、プロデューサーとしてたずさわっているワイド番組の仕事の中で、ニュース原稿や政治家や文化人を招いたゲスト枠の台本を書くのは得意で、関心もあり、それをすることに価値も感じているのだが、ミュージシャンなどをお招きするコーナーの演出や選曲などは不得手としている。
もっとも、それらも20代の頃からひと通りやってきた仕事なので、私しかいない場合は自分でやるのだが、スタッフにセンスのいい人材がいれば任せてしまうことが圧倒的に多い。
そのほうが、いいものが早くできる。その代わり、私は、自分が得意としている分野を引き受ければ、番組全体にとってプラスになると考えてのことだ。
あなたが、まだ部下を持つ立場でなくとも、先輩に得意な人がいれば、それは先輩にお願いし、あなたが得意なものと分担してかかれば、作業全体が効率よく進むことになる。
とはいえ、職場の多くは、団塊の世代の退職やリストラ、それに新人採用の減少などによって人手が減り、得意なことだけやっていればいいという恵まれた労働環境ではなくなってきているはずだ。
しかし、そんななかでも、「得意なこと」「関心があること」「価値を見出せること」を意識しながら仕事に臨めば、仕事を先送りしたくなる気持ちの軽減ともども、得意分野をさらに究めるというサスティナブル・ディベロップメント(=持続可能な開発)も望めるようになるだろう。