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「夫の転勤による離職」をゼロに!広がる「異業種間転籍制度」とは?

2019年04月04日 公開
2023年03月10日 更新

角道裕司(アイザワ証券専務取締役)

家族の転勤や介護で引っ越し…離職に「待った」

多くの企業が働き方改革を進める中、結婚や配偶者の転勤、介護による転居で離職を余儀なくされるビジネスパーソンはいまだに多い。これまでのキャリアを生かせる仕事を転居先で探してもなかなか見つからない。そのような悩みを解決するため、キャリア継続の新たな形が広がりつつある。

企業同士で人材を紹介し合い、同じ待遇のまま転籍できる制度だ。いったいどのような仕組みで、働く側や企業にどのようなメリットがあるのか。

国内で初めて、異業種間で同待遇の転籍制度を考案したアイザワ証券の専務取締役、角道裕司氏に寄稿してもらった。

 

銀行から証券会社に転籍?しかも待遇はまったく同じ?

「遠距離で付き合っていた彼との結婚を決めると、営業や広報で培ったキャリアを捨てることになるので、泣きながら彼に電話したこともありました。夫と一緒に暮らすため会社を辞めてもまた正社員として働きたかったので、入社8年目の処遇のまま受け入れてもらい、ありがたかったです」

兵庫県にある当社の加古川支店で働く原田千秋さん(30)は笑顔でそう振り返ります。

原田さんは2011年に山口県に拠点を置く西京銀行に入行し、預金貸付や資産運用営業、広報として7年間キャリアを積んでいましたが、ご主人が勤務するのは兵庫県姫路市。西京銀行には姫路から通える支店がないため、結婚を機に退職を考えなくてはなりませんでした。

そこで活用したのが、前職と同じ待遇のまま提携先の企業に転籍できる当社の制度。原田さんは上司から「アイザワ証券には姫路から通える支店がある」と紹介してもらい移ることができました。

喜んでいるのは本人だけではありません。ご主人も

「これまで彼女は総合職として活躍してきた。自分のせいでキャリアを折ることにずっと悩んでいたが、本当によかった」

と安堵しています。

 

給与はもちろん、有給休暇日数まで同じに

当社では2015年、西京銀行と包括業務提携を結び、その中で互いの社員を同じ待遇のまま受け入れる上記のような制度を導入しました。正確には役職や給与を双方の高い方に合わせるため、待遇が下がらない転籍です。

証券会社と銀行という異業種同士で、待遇を落とさずに転籍できる制度は国内初となりました。両社の等級を照らし合わせて細かくシミュレーションを行い、これまでのキャリアを生かせる業務を探して配置するため、問題なく待遇を引き継ぐことができます。

前述の原田さんは、

「入社1年目から少しもらい過ぎている。でもそれは早く新しい職場で力になり、引っ張っていきたいとモチベーションの向上につながっている」

と仕事への意欲に満ちあふれています。

役職や給与だけでなく、有給休暇の日数も前職からそのまま引き継げるというのも驚かれます。

アイザワ証券には西京銀行から結婚をきっかけに2名転籍していますが、4月には介護による転籍もあり、計3名が各地でキャリアを生かして働いています。また、転居先から地元に戻る場合は、元の西京銀行で再び働くこともできる可逆性も、この制度の特徴です。

西京銀以外にも2社と同様の提携を行い、今後も増やしていく方針です。

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著者紹介

角道裕司(かくどう・ゆうじ)

アイザワ証券専務取締役CIO(チーフ・イノベーション・オフィサー)・静岡大学客員教授

奈良県出身。昭和57年大阪大学卒、同年富士銀行入行。人事部、証券部、資金証券営業部等を経て、グローバル企画部統合企画室でみずほ統合PJ担当。その経緯で勧角証券(現みずほ証券)へ出向、経営企画部長、米国駐在(ボストン)特担部長を経て、みずほ銀行証券部長、同証券・信託業務部長等を歴任、みずほの「銀・信・証」連携企画/推進を担う。平成22年6月、藍澤證券常務執行役員、同29年に専務取締役戦略企画本部長を経て現職。

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