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喫煙所の未設置は行政の怠慢

2021年11月15日 公開

橋下 徹(元大阪府知事・弁護士)

橋下徹写真:大坊 崇

自由を守るにはルールが必要であり、そのルールの範囲内で互いの自由を認め合うのが正しい社会の在り方である。行政は私的スペースと公的スペースの中間領域を整備せよ――。橋下徹氏に聞く行政の責任と喫煙所の在り方(聞き手:編集部)

※本稿は『Voice』2021年11⽉号より抜粋・編集したものです。

 

「他者危害」と「自己危害」

――以前、秋葉原(東京都千代田区)の駐車場にたむろして喫煙やポイ捨てをする人びとの姿が朝のワイドショー(フジテレビ系列『めざまし8』)で報じられました。橋下先生は同番組で「政策の失敗。喫煙や飲酒は禁止されていないため、行政のフォローが必要」とコメントしています。真意についてお聞かせください。

【橋下】まず、たばこの問題を考える際の大きな前提は「他者危害」と「自己危害」という二つの原則です。

個人の自由な行為を法律が規制できるのは、それが他者に危害を与える場合。逆に他者に迷惑を掛けないかぎり、個人の自由は保障される。これを「他者危害」原則といいます。

他方で喫煙や飲酒など、自身にリスクを与える可能性のある行為=「自己危害」についてはどうか。たばこやお酒は法律で禁止されておらず、健康に影響があるとしても、摂取は個人の自由と見なされてきました。もちろんお酒を飲んで暴力を振るうとか、飲酒運転で他者を傷つけるようなケースはあるけれど、それは傷害の行為自体を罰すればよいので、お酒を飲む自由まで禁じるのは間違いだと僕も思います。

――たばこも同じですね。

【橋下】ただし「自己危害」に関しても、規制を行なうことがあります。たとえば「未成年者喫煙禁止法」や「未成年者飲酒禁止法」では、未成年者の喫煙や飲酒が禁じられていますが、未成年者本人は罰せられません。これはいわゆるパターナリズム(国親思想)の考え方です。

十分にリスクを判断できない未成年者の「自己危害」行為については、「当人を守る」観点から国が自由を制限することがあります。当人を守る目的なので、禁止違反をしても罰することはありません。未成年者にたばこを勧めるなどした大人は、未成年者という他者に危害を与えたとして罰せられるのみです。

――大人の喫煙に関しては、どう考えればよいでしょうか。

【橋下】喫煙について「他者危害」と「自己危害」を完全に線引きするのは、じつは容易ではありません。たとえば、風光明媚な広い観光地でたばこを吸う人がいるとして、たばこが嫌いな人は「せっかくの綺麗な空気を汚して」と思うでしょう。他方、喫煙する側は「人との距離を保ってオープンな野外で吸っているのに、何が悪い」と思うかもしれない。

ただし、自宅や自家用車などプライベート空間で喫煙する場合であっても、密室空間に子供がいる場合には完全な自由とはせずに、未成年者への「他者危害」行為として規制する必要はあるかもしれません。

――密集度合いによって「他者危害」の捉え方が変化する。

【橋下】はい。さらに、たとえば歩行喫煙が規制されるのは、たばこの火が「他者危害」をもたらすと考えられるからです。現在のところ「他者危害」と「自己危害」という二つの原則を用いて考えると、たばこにまつわるいろいろな問題の解決策を導くことができると思います。

 

私的空間と公的空間のあいだに喫煙所を

――冒頭の秋葉原のケースにお話を当てはめると、どうなりますか。

【橋下】行政の千代田区が、この二つの原則から解を導く努力をしていないことが問題の本質だと思います。具体的には、「他者危害」と「自己危害」の原則から、公私の領域における規制の在り方を意識していないことが問題です。

日本には個人がたばこを自由に吸えるプライべート(私的)な空間と、喫煙禁止区域のようにたばこを禁じるパブリック(公的)な空間があります。問題は、秋葉原の駐車場のように中間領域のスペースをどう扱うか。仮に喫煙を「100パーセントの他者危害」と見なして全面禁止にするのであれば、喫煙禁止区域であろうとなかろうと、行政区域内のあらゆる場所で喫煙を徹底的に取り締まり、処罰しなければいけません。

他方、喫煙を「他者危害と自己危害のあいだ」と見て、一部容認の立場に立てば、私的空間と公的空間のあいだのスペースに何らかのバッファー(緩衝装置)が必要になる。

――それが「喫煙所」なんですね。

【橋下】そう。自治体が喫煙を部分的に認めるのであれば、分煙を徹底し、プライベートとパブリックの中間領域には必ず喫煙所を設置しなければいけない。たばこの存在を認めておきながら、予算不足を理由に喫煙所の整備をフォローしないというのは、行政の怠慢です。

煙を完全に取り締まるか、吸う場所を徹底的に確保するか。いまの自治体は、原則の考え方が定まっていません。どっちつかずで徹底さに欠ける結果、中間領域である喫駐車場の管理者や近隣住民など、一部の人たちが多大な迷惑を被っているわけです。

 

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