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情報を掴んでいた英軍がなぜ? チャーチルが生涯悔やんだ「シンガポール陥落」の裏側

2021年12月07日 公開

岡部伸(産経新聞社論説委員、前ロンドン支局長)

岡部伸

大英帝国史上、最大の悲劇と言われたシンガポールの陥落。日本軍が電光石火のごとく驚異的なスピードで成し遂げた作戦成功の裏には、英国が驚愕した完璧な諜報活動があった。

※本稿は、岡部伸著『第二次大戦、諜報戦秘史』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

イギリスが驚愕した日本軍の諜報活動

ウィンストン・チャーチルといえば、イギリスでは「歴史上で最も偉大な人物」と尊敬される名宰相だ。そのチャーチルが生涯悔恨し続けたのが、「東洋のジブラルタル」と称され、難攻不落の要塞と謳われたシンガポールの陥落である。

1941年12月8日未明、ハワイの真珠湾攻撃に先立つ1時間以上前に、マレー半島北端のコタバルに奇襲上陸した日本軍は、わずか55日間で半島南端のジョホールバル市まで到達。開戦からわずか70日間でシンガポールを陥落させた。マレー(馬来)作戦である。

イギリスを完膚なきまでに打ちのめした日本のマレー作戦は、なぜ成功したのか。その原因をイギリスが探った秘密文書が英国立公文書館にある。MI5による「マレーにおける日本のインテリジェンス活動」(KV3/426)と題するファイルだ。

ファイルには、欧州で第二次世界大戦が勃発した1939年9月直後に、シンガポールに設立された防諜組織のDSOシンガポール支部などが、1940年11月から戦後の1955年3月に作成した約56種類の秘密文書が含まれている。

まず、英国立公文書館が作成したサマリー(要約)から紹介したい。

シンガポール陥落を招いた日本軍のマレー作戦における諜報活動を示す様々な証拠が含まれている。イギリス領マレー、とりわけシンガポール要塞では、(日本による)完璧な諜報活動があった。シンガポール総領事(開戦直前まで務めた鶴見憲総領事)の指揮で行なわれ、それを察知したDSOは緊急に(総領事事務所を)閉鎖(退却)するように警告した。

しかし、警告は政治的なご都合主義で無視された。一般の将校や市民がいとも不注意に重要秘密事項を公然と話していたことが大変悔やまれる。「KAME」はじめ多くのマレー人、日本人らによる「第五列」組織が秘かに活動していたからだ。

「第五列」とは、狭い意味では、侵入軍に呼応する被侵攻国内の組織的活動集団をいうが、広くはスパイや(敵対)協力者を指す。

イギリスは日本人が諜報大国・英国のお株を奪い、自国内に内部情報を暴露する内通者を潜入させていたことに驚嘆したのだった。

 

全員がスパイに生まれたような日本人

同ファイルの最初の文書は、1940年7月にDSOシンガポール支部が同年4月までのマレー半島で活発化し始めた日本の諜報活動に関してまとめた報告書の抜粋(1a)である。

日本人を中心にオランダ人、イタリア人、チェコ人、そして臨時入国した200人のドイツ人らを含む多くの在留外国人らが(驚くべき協力体制をもって)イギリス領マレー、とりわけシンガポールで「完璧な諜報活動」を行なっている。

1941年の4月、日ソ中立条約が締結され、ソ連による北の脅威がとりあえず除去されると、日本は水面下で南進のための下調査を本格化させた。イギリスのDSOシンガポール支部が同年4月にまとめた報告書の抜粋(5a)では、シンガポール港内でスパイ活動を行なった民間の日本人船員を摘発したが、「全員がスパイに生まれたような日本人による諜報活動は今後も継続されるだろう」と警戒感をさらに強めている。

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