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しつけはいつから必要? 研究で明らかになった「乳幼児の脳」との関係

2022年05月17日 公開

養老孟司(東京大学名誉教授)、小泉英明(日立製作所名誉フェロー)

乳幼児の脳の仕組みやしつけ・教育のポイントを解説。

子どもの脳の成長については様々な情報が世に出ているが、専門家の確かな知見を知っておきたい。自ら開発した「光トポグラフィ法」などを用いて、長年子どもの脳の研究を続けてきた小泉英明氏と、解剖学者の養老孟司氏が、「褒める教育」「お受験」「睡眠学習」などについて語り合った。

※本稿は、養老孟司著『子どもが心配 人として大事な三つの力』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

同じ人間をずっと追いかける「コホート研究」

【養老】小泉先生は子どもの脳がどのように育まれていくかを、未来に向かって観察する「コホート研究」に取り組まれていますね。日本ではあまりやられていない研究で、私も注目しています。

従来の調査は、たとえば小学校5年生を調べて、同時に1年生も調べる「横断的なやり方」でした。この方法だと、一人ひとりの違いがわかりません。5年生と1年生の平均の違いがわかるだけです。

その点、同じ人間をずっと追跡するコホートという手法を採ったなら、何か起こったときに、それが起こる以前にあった現象との相関関係を統計的に観測することができます。調査には数千人単位の国家規模を要するうえに、事前に何を測るのか、細かい質問を決めておかなければならないなど、大変な手間がかかりますし、統計結果がその時代の子どもにしか当てはまらない可能性がある、といった問題もありますが、それでも研究を続ける価値があると、私は考えています。

―これまでのコホート研究で、たとえばどんなことが明らかになりましたか?

【小泉】まだ母集団が比較的小さく(約500人規模の「すくすくコホート」"Japan Children,s Study"の結果)、完璧とは言えませんが、データの裏付けが取れていることとして、「かなり小さい乳幼児の時期に限っては、褒めて育てるのがいい」とわかりました。1、2歳くらいまででしょうか。

褒めて育てた群と特にそうではない群では、生後18週、30週、42週の統計的有意なデータで、社会能力(Social-abilities)の指標に10%以上の差が生じました。また6年後の学童期でも、親子がコミュニケーションをとってきた例と、少ししかとってこなかった例では、社会性の指標に大きな差(オッズ比で16)が出ることもわかってきました。「すくすくコホート」のなかでの安梅勅江(あんめときえ)筑波大学教授のまとめです。

日本には「三つ子の魂百まで」という言い伝えがあります。「幼いころに形成された心は老年になっても変わらない」ことを意味しますが、同じようなことわざが世界中にあって、少なく見積もっても50以上の国で伝えられています。

昔は数え年ですから、「三つ子」は2歳くらいでしょうか。だとすれば、ゼロ歳から2~3歳くらいにどんなことをどんなふうに教育するかは大変重要だということです。しかし日本の乳幼児教育については一つ懸念していることがあります。保育園は厚生労働省、幼稚園は文部科学省というふうに管轄が分かれていることです。

教育にとって最も重要な時期を過ごす保育園は、基本的に子どもを「預かる」場所で、子どもにとって望ましい教育環境になっているかどうかはわからない。国家予算もそこに十分投下されることはない。そこが大きな問題です。それでも官庁間の壁をとりのぞくべく、「子ども園」などの制度も少しずつ現実になってきました。

 

自然のものに「手で触れる」経験が重要

乳幼児期は身体系と脳神経系の土台が築かれる時期です。とりわけ神経回路がつくられるのには臨界期があって、1歳くらいまでの期間に、神経回路が発達することがわかっています。その時期に子どもにとって良い環境を整えることが大切なのです。

具体的には、身の回りの物や自然の造化(ぞうか)など、さまざまな物に手で触れることですね。そうして何か、新しい動作ができるようになったり、新しいことを覚えたり、いままでできなかったことが上手にできるようになったりしたときは、心から褒めてあげる。赤ちゃんは喜んで、また褒められたいと、学習への意欲をいっそう高めるのです。

一方、しつけという大切な問題もあります。重要なのは発達に応じた順番です。生まれてからの数年間はしつけよりも愛情と関わりが大切なのです。これは教育の基本であって、約600年前の世阿弥(ぜあみ)の『風姿花伝』にも教育論が明瞭に整理されていますね。最初はこの世界に興味を持たせることから始まるのです。

昨今増えているように、まだ土台が築かれていないこの時期にお受験のためにがんばらせるような教育を与えるのは感心しません。意味がないと言ってもいいくらいです。基本的な神経回路が構築される時期に必要なのは、自然環境からの本物の刺激です。情報が削ぎ落とされた人工物では、基本的な神経回路が正しく形成されません。

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